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「あ、あ、あ、あああっ」  形容しがたい質量と熱が、蘭珠の体を暴く。全てが喰いつくされるようでもあり。逆にリュシアンの全てを呑み込んだようでもあり。自分と相手の境界がなくなり、何もかもひとつに混ざり合うかのような、強烈な一体感。琥珀色の瞳から、涙がごく自然に溢れた。 「ランジュ。愛している。ランジュ」 「ひ、あ、んんっ、あっ」  壊れた玩具のように名を呼びながら、リュシアンは蘭珠の小さな体を突き上げる。これ以上奥などないと思うのに、どんどん深く分け入ってくる。最早蘭珠は己がどんな声をあげているのかも、何を考えているのかすらも、分からなくなった。 「ランジュ」  背を(いだ)かれ。胸と胸をすり合わせ。頬をお互いに寄せ合って、深いところを揺すりながら、リュシアンが吐息まじりに囁く。 「私を愛してくれてありがとう」 「私を求めてくれてありがとう」 「そなたのおかげで私は愛を知った」 「優しくする、慈しむということを知った」 「そなたがこんなにも愛おしい」  リュシアンの言葉が脳の深くに沁みてくる。体の奥から浸食され、蘭珠の内部が全てリュシアンで埋まっていく。こんな感覚は初めてだった。  他人とは分かり合えないものだと割り切っていた。いつからか、己は他人と違うのだと考えるようにしていた。誰も己の立つ頂きには届き得ないのだと驕っていた。壁を築き。溝を掘り。誰も寄せ付けず生きてきた。それはある意味では誇りでもあり、一方で諦めでもあった。  なのに今、自分の中にリュシアンがいる。我儘で自分勝手で癇癪もちでどうしようもない男だ。だというのに、こんなにも彼が愛おしい。 「リュシアン、リュシアン……っ」  名を呼べば殊更愛おしさが募る。突き上げられる下腹から生じる暴力的な快楽と、心から生じる泉のような幸福感と。全てに翻弄され、全てに狂わされた。  わけの分からない涙が次々に溢れてくる。リュシアンがそれを舌で何度も舐め取った。その仕草に白銀の子犬の面影を覚え、思わず笑ってしまう。 「犬の、っ仕草が抜けておらぬぞ」 「狼だと言っているのに」  だが最早、狼ですらない。リュシアンの中の獣は失われた。他者を顧みぬ自己愛の獣は、愛を知り、溶けて消えた。 「狼の姿の貴殿は、美しかった。もう見られぬのは残念だ」 「この姿の私では物足りぬか?」 「どんな姿でも、貴殿は貴殿だ。リュシアンそのものを、愛している」 「素直になったな、ランジュ」 「貴殿の、ぁっ、せいだ……。貴殿があまりに明け透けに、んっ、おれを、美しいとか云うから」 「ああ、そうだ。そなたはどんなときも美しい。そして、魅惑的、だっ」 「ひ、ああっ」  脚を抱えなおされ、深い角度で(えぐ)られる。体が離れて背にしがみつけなくなった蘭珠は、敷布を握り締めて快楽に耐える。最早限界が近かった。蘭珠の欲望は反り返り、腹の上にぽたぽたと涙を滴らせる。リュシアンのものもまた蘭珠の中でこれ以上ないほど張りつめて、爆発のときを今か今かと待ち構えているようだった。 「リュ、シアン、おれ、あっ、もう……っ」 「よいぞ、っ、ランジュ」 「あ、あっ、だめ、だめだ、ひ、ぁ、ああっ」  しなやかな体が大きく跳ね、手足が痙攣する。充血した己の屹立から勢いよく精が吐き出されるのを、蘭珠は蕩けた瞳でぼんやりと見ていた。  ぱた、ぱた、と、軽い音を立てて白濁が散る。蘭珠は息を吐いて絶頂の余韻に浸ろうとするが、次の瞬間にはリュシアンの楔が強く内部を穿っていた。 「んあっ」  思いがけず与えられた刺激に、頭を仰け反らせる。純白の敷布に、長い黒髪がはらりと散った。 「リュ、リュシアンっ、今、だめだ、ばかっ」 「すまぬ、ランジュ。辛抱ならん」 「ひ、ぐっ」  伸びてきた手に背を抱えられ、上体を持ち上げられる。そのままリュシアンの胸にもたれかかれば、座ったリュシアンの上に跨るような形になった。無論、深く穿たれたままである。仰向けよりも深く鋭い角度で内側を貫かれ、もはや快楽と苦痛の境目が分からなくなった。 「あ、ああっ、ひ、やだ、ばか、本当に貴殿は自分勝手……っ」 「ああ、ランジュ、愛おしい……っ」  下から突きあげられ、体を揺さぶられ、蘭珠は狂ったように声をあげた。達したばかりで敏感になっている体は、快感を何倍にも増幅させて蘭珠を翻弄する。思考が白濁していく。だらしなく開かれた口から唾液がつたえば、リュシアンがそれをいやらしく舐め取った。 「あ、ああっ、おかしく、なるぅ」  蘭珠は我を忘れて乱れた。高い声をあげ、瞳を潤ませ。そんな蕩けた姿をリュシアンが穴が開くほどに見つめていることに気づき、忘れかけていた羞恥がぶわりと沸き起こる。 「あ、や、いやだ、そんなに、顔ばっかり見るなっ」 「できない、相談だっ」 「ひ、ぅ、今、ひど、ひどい顔をしている、からぁっ」 「ああ、ひどく扇情的で、っ、心臓に悪い」 「ば、ばか、あ、いやだあっ」  顔を逸らそうにも、リュシアンに抱き上げられている形ではかなわない。羞恥と快楽と、大きすぎるふたつの波に翻弄されて抗うこともできぬ。リュシアンに、あの子犬めにこんな目に遭わされるだなんて思ってもいなかった。 「ランジュ、はぁ、私も、もう……っ」 「はや、早く、いってぇ……っ」 「ランジュ、ランジュ。私の愛を、そなたに注がせてくれ……っ」  鼻先が触れ合うほどの至近距離で、翠玉の瞳がまっすぐに射抜いてくる。蘭珠もまた琥珀色の瞳で見つめかえした。互いの瞳に互いの乱れる姿だけを映したまま、蘭珠の体内でリュシアンが爆ぜる。 「ぅ、く……っ」 「んぁ、ああ、あああ……っ」  熱が、流れ込んでくる。蘭珠は夢中で目の前の唇にむしゃぶりついた。小さく喉で声を上げながら、溶け合うように舌を絡め合う。息が続かなくなるまで味わってから、唇を離すと同時に、蘭珠を貫いていた熱芯が引き抜かれた。 「ん、んんん……」  とろりと粘液が溢れる。解放された蘭珠は、力を失って寝台に仰向けで倒れ込んだ。すぐにリュシアンも覆いかぶさってくる。  揃ってはあはあと荒い息をつきながら、ぼんやりと天蓋を見上げる。優しく黒髪を梳いてくる指先が心地よかった。 「ランジュ、愛している」  飽きずに言って、目尻に唇が降ってくる。白銀の髪がふわりと頬にかかる。蘭珠はそれを甘んじて受け止め、恍惚とした様子で目を細めた。

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