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第1話ー2

*  風間は大学の友人でもあり、現在ルームシェアをしている仲でもある。二人が初めて出会ったのは、入学式の数週間前に遡る。  その当時、薫には何となしに付き合っていた相手が居たが、都内の大学に合格したことを機に別れを告げた。理由を問われ食い下がってこられたが、最初から何となく付き合っただけだったのだ、惰性のように付き合っていた関係性にこれといった理由も見付からず、半ば一方的に別れを告げた後、都内への引っ越しを決めた。  土地勘のない場所で闇雲に不動産を尋ね歩き、三件目の不動産。疲労もピークに達している中で、ショウウィンドウに張り出されている家賃表示をぼんやりと眺めていた、その時。 『やっぱさ、少なくとも1Kが好いと思わない?ちゃんとドアで仕切られててさ』  隣から聞こえる言葉に、そうなんだよなあと頭の中で同意する。しかし、1Kとなるとその分値も上がる物件が多い。 『ワンルームだと料理した時に匂いつくだろ、服に。聞いてる?』 『…え。』 『だからさ、1Kがいいよねって話。』  まさか、自分に話し掛けているとは思っていなかった薫は、隣の声の主を驚いて見た。さらりとした黒髪に清潔感があり、好青年といった雰囲気の男が立っていた。念のため、周囲を見回し、他に人が居ない事を確認して再度目線を合わせる。 『…えっと。いま俺に話しかけました?』 『他に誰が居るんだよ』  屈託なく笑う彼は妙に気さくだった。馴れ馴れしさを感じさせないのは、彼の爽やかな容姿のお陰かも知れない。人見知りの気がある薫は、ぎこちない表情で曖昧に微笑するが、目の前の彼はお構いなしに話し掛けてくる。なかなか引きそうにない彼の様子に、場しのぎ的な返答をする事に決めた薫は、へえ、とか、そうなんですか、などを多用しながら言葉を返す。 『あー俺、料理出来ないからな。1Kじゃなくともこの際一緒か』 『へえ。料理は慣れですよ。案外やってみると楽しいですよ』  料理好きの薫が、ここで零した一言が。まさか今現在も同じ屋根の下で続く、彼との付き合いのきっかけになるとは思いもよらなかった。

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