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第1話ー3

『なあ、料理は得意なの?』 『得意とまでは言いませんけど、割と好きですね』 『掃除とか洗濯は?』 『まあ、それなりに。』 『何か苦手な事ないの?』 『洗い物とか…?苦手と言うか、疲れていると。たまに食洗器が欲しくなる時はありますね』  唐突な質問に、なぜそんな事を聞くのか訝しがりながらも答えると、満面の笑みを浮かべた彼が片手を差し出してくる。反射的に片手を差し出すと、骨ばった手が薫の手をぐっと掴む。 『宜しく相棒。』 『は?』 『あんたは料理、俺は主に皿洗い』 『え』 『ルームシェア成立。』  握られた掌が、今更ながらに握手だと気付く。彼のテンポについていけない。あっけにとられていると、室内から様子を見ていた店員が、ここぞとばかりに笑顔で近付いてくる。 『お二人でルームシェアですか?若者の間で最近、増えているんですよ。どうぞこちらに。ぜひ見るだけでも』 『え?いや別に』 『お、見に行こう』  戸惑った薫の声を、彼のからりと明るい声が上回った。店員は都合よく彼の声のみを拾って店内へと促す様に片手を伸ばす。 『ちょっと、あんた…なに勝手に』 『あんたって酷いな。俺の名前は涼太、風間涼太。』  振り返った彼が、薫の片手を握ったまま振り向いた。口角を持ち上げる様に笑った彼が、全く悪びれる様子もないものだから、思わずごめんと謝りそうになる。 『で、そちらのお名前は。』 『…あ、芳野薫、だけど…』  完全にペースにのまれたまま名前を告げると、掴まれていた手がするりと解かれ、代わりに親し気に回された腕で肩を掴まれた。ますます逃げられない。 『さ、行こうぜ薫。』  こうして、半ば強引にルームシェアは成立したのだった。

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