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第1話ー5

 彼と異なり、薫は他者と何気なく関わっていくことが苦手であり、遠巻きに周囲の学生を眺める時が多かった。周囲と付き合う上で、人付き合いの苦手な薫が蘇生術として人を観察することを身に付けたのは、そう最近のことでもない。  一方風間は、持ち前の人当たりの良さと絶妙な軽快さで、周囲の空気にすんなりと溶けていく。集団でいる際、感情を上手く表現できない薫は、常に柔和な笑みを浮かべている。そのせいか、女子生徒からある種の理想的なイメージを持たれる事も少なくなかったが、だからと言って自分に何かメリットがある訳ではない。風間の様に、自然体そのままで人から受け入れられるような在り方が、薫には眩しくもあった。 「お前は、いいなあ。そのままで。」 「なに、唐突に」 「うーん。俺は、人との上手い付き合い方が分からない所があるから。イメージ先行で、誤解される事あるし」  薫はわざと、軽い調子で返答する。そんな様子を見て「ふうん」と同じように軽く返した彼が、少し考えてから緩く息を吐き、笑って見せた。 「まあでも、そういう部分は、1人でも知ってる奴が居ればいいだろ」  ふと、彼の穏やかな声色が耳に聞こえる。大きな口でパンを咀嚼しながら、指先に付いた甘ったるそうなジャムを嘗めとる姿は、子どものような無邪気さで思わず笑ってしまう。 「1人って誰だよ?」 「俺に決まってんだろ。」  当然とでも言うような得意げな表情で返す風間に、きゅっと胸が高鳴ると同時に、ほんの少し痛みが走った。それを悟られまいと、軽く笑む。幾分、強張った笑顔になってしまっただろうかと頭の片隅で考える。 「確かに、風間と居ると安心するよ」

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