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第2話
午後6時、新宿駅では行き交う人でごった返している。週のなか日のせいか、スーツ姿のサラリーマン達の表情はどこか虚ろだ。かと思えば、まるで何かと競うように大声を張り上げて奇声をあげる若者達。鮮やかに人目を惹く広告とキャッチコピー、見知らぬ人達の沢山の足音と香水の匂い。薫は、その全てをまるでテレビ画面でも眺めるような無関心さで通り過ぎた。
東口改札から数歩進んだ所で、ポケット内から軽快なメロディが鳴り、薫は浮かび上がるLINEの文字を目で追った。
「あ、芳野君」
ふと、人混みの中から、自分の名前を呼ぶおっとりとした声が届き顔を上げた。
「ああ、弥生さん」
「良かった。友達が今日来られなくて、新宿も詳しくないし心細かったの」
ふわりと華のように笑う彼女は、大学、専攻ともに薫と同じである弥生梓 だ。1年生の時から顔見知りではあったのだが、こうして話をするようになったのは、2年に進学し社会学の初回グループワークで同じ班になってからだった。
今日は、その社会学を先行している数名の友人達と、親睦を深めるためと称した飲み会だった。団体での飲み会にはあまり参加しない薫ではあるが、ある程度の友人付き合いは必要だと考えての参加だった。
「芳野君も、一人で来たの?」
「いや、風間と待ち合わせだよ。いま連絡がきたから、もう来るとは思うんだけど」
言い終わるか終わらないかのうちに、何かが薫の背中にぶつかり前に倒れそうになる。慌てて横の柱を手で掴むと、悪戯に成功した子どものような、愉快そうな笑い声が耳元に届いた。
「お待たせー、びっくりした?」
薫の肩に置かれた風間の腕を横目で見ながら苦笑する。柱から手を放そうとすると、斜め下に、頭1つ分低い梓のびっくりしたような顔があった。咄嗟のことながらとった体勢が彼女に迫るような形になってしまったからだろう。
脅かさぬよう、手をそっと退かすと、薫は安心させるようにゆっくりと笑顔を向けてから風間を振り返る。
「お前のせいで、弥生さんに迷惑がかかっただろ」
薫はたしなめる様に言うと、風間の胸元を拳で軽く叩く。
「お、梓じゃん。至近距離で見る薫はなかなか男前だろ?」
「なに馬鹿なこと言ってるんだ。弥生さん、驚かせてごめん」
梓は頭を小さく横に振って否定すると、どこか呆れ顔な薫と、その隣で自由に振舞う風間を交互に見ながら「2人とも、仲良しなんだね」と、無邪気な顔でにこりと笑った。
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