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第2話-2

「えーそれでは、評価の厳しい青木先生の授業、皆で乗り切れることを祈って!」  お道化た調子でノンアルコールビールを片手に掲げるのは、ちょっとしたイベント事の際に、よくリーダー役を務める長谷川尚人(はせがわなおと)だ。綺麗に染め上げた金髪に、骨ばった強面の顔、それに加えて身長が182センチもあるものだから、初対面の人間はみな率先して彼を避ける。しかし、彼は人一倍元気で、少し目立ちたがりで、意外にもお人好しな、友人にしたら楽しく気楽な学生生活を送れそうな。そんなタイプの人間だった。そして、彼は酒がまるで飲めない。  新宿区役所通りのとある一角。学生が頻繁に活用すること間違いなしの、料理が不味く値段は安いチェーンの個室居酒屋である。とあるカクテルなどは、モンダミンの味がすると専らの評判だ。  あちらこちらでグラスの重なり合う音がして、長谷川が一気飲みを所望される。応じた長谷川はノンアルコールビールを上手そうに飲み干し、笑いを誘っている。学生同士の飲み会というものは、仲間内であれば何でも楽しく思えるのだろう。薫は集まっている数名の顔を眺めながらビールを味わい、ぼんやりとそんな事を考えている。勿論、口許には柔和な微笑を浮かべるのは忘れない。 「芳野君、青木先生ってそんなに厳しいの?」  気が付くと、右隣の席に梓がいた。東北生まれの梓は元々色白で、マシュマロの様にきめ細かく柔らかそうな肌をしている。小動物を思わせるようなくりっとした愛らしい目が特徴で、美人という訳ではないが、バランスの取れた愛らしい顔立ちをしている。彼女の持ち前の愛嬌の良さが、その容姿を更に可愛らしく見せているのは間違いない。  先ほど、梓は長谷川の近くに座っていたはずなので、恐らく移動してきたのだろう。長谷川は梓のことが好きだった。それはもう、暑苦しい位に。彼は押すのは得意でも、引くという行為がいまいち理解出来ていない。 「青木先生は、確かに評価は厳しいかな。でも、根拠を明確にしたレポートを出せば、悪い点を取る事はないよ」  運ばれてきたお通しを梓の前に移動させながら、薫が笑顔で答える。 「それに、長谷川が今回企画した理由は、ただ飲み会をしたかっただけだから安心して」 「そっか。長谷川君、飲み会とかのイベント事、本当に好きだもんね」

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