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第3話

「直ぐそこが三丁目駅だよ。買い物、終わるまで待っていようか?」  交番横のファミリーマートの前で薫は梓に問いかけた。  あれから、梓を京王線まで送るつもりだったのだが『風間君が心配だから遠回りしなくて大丈夫』という事で、三丁目駅付近まで一緒に歩いて来たのだった。そんな訳で、コンビニへ立ち寄ってから帰るという梓と、今に至る。 「ううん、ありがとう。もう行ってあげて」  女性を一人で帰すのもどうかと迷ったが、駅への階段は徒歩数秒の距離で、時間帯もそこまで遅いという訳でもない。  結局薫は、その申し出を素直に受け取ると、それじゃあ、と手を振って携帯を取り出した。風間に電話をかける。呼び出し音が数回鳴った所で気怠そうな風間の声が耳に届いて、どこかほっと安堵した。 「どこにいるんだよ?」 『あー、イレブンマートを左手に直進』 「大雑把過ぎる。」 『コインロッカーが目印だ』 「…はいはい。いつもの事だけど本当に自由なんだから」  風間に頼まれると、時々面倒臭い奴だと思いながらも、最終的にはまあいいかと思ってしまう薫である。風間の自由奔放さに諦め半分、惚れた弱み半分といった所だろうか。  新宿にはよく足を運ぶ薫ではあったがこの辺りは管轄外だ。土地勘のない場所を歩きながら、ぐるりと辺りを見回す。やたらと狭い路地に、所狭しと看板が立てかけられている。恐らくバーの様なものだろうか。ある種独特な雰囲気に、風間はこういった場所に最近よく来るのだろうかと考えながら歩いていると、身体のバランスがいきなり左に崩れた。考え事に意識を取られていた事もあり、咄嗟の対応が出来ず思わず目を瞑ると、後頭部を手で覆われた後、背中に軽い衝撃が走る。大した痛みは無いが、スチール製の何かのようで、痛みの少なさに対して衝撃音は大きく響いた。驚いて見目を開くと、見知った顔があった。 「…あ、風間?」  名前を呼んでから、ふと気付く。風間が普段している両耳のピアスが左だけ欠けていた。というよりも、夜目にも赤く腫れているのが分かる。流血しているような跡。 「お前、それ――」  どうしたんだ、と問い掛けようとした所で言葉が出口をなくして無音になる。視界がぼやけて見え、それは相手との距離が近すぎるせいだと気付いてから、風間にキスをされているという状況を薫は理解した。

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