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第3話-2

「…っ、おい、」  抗議するように腕を動かそうとすると、掴まれたままの左腕に力が加わった。大した痛みではないが、抵抗するなと無言で伝えているようで、薫は冷静な頭に切り替えどうしたものかと考える。薫がバイセクシャルだととうに知っている風間は、今まで悪ふざけのようにキスをしてくる事はたまにあったが、それは屋内の話だ。屋外で、しかも軽く重ねる以上のキスは今まで一度も無かった。  とりあえず、もう一度は抗議しておこうと掴まれた腕を振り払って風間の胸を叩いた。煩わしそうに細目を開けた風間が唇を離すと、薫の腔内に微かに酒の味が残る。 「何だよ。」 「…お前、酔ってる?誰かに見られたらどうするんだ、お前にとっては冗談のつもりだろうけど。」  叩いた拳でそのまま風間を後方へ引き剥がすと、右手に持っていた鞄を無言で差し出す。風間はそれを受け取ること無く何か考えるように唇を指先に当てると、口角を上げて笑った。酔ってない。そう返してくる風間の顔からは、言外に含まれた嫌味にさえ気付いていないようだった。 「じゃ、見えない場所ならいいんだろ」  そのまま鞄を差し出した薫の腕を再度掴む。今更気が付いたその場所は、先ほど電話口で話していたコインロッカーだ。U字に型に並んでいるコインロッカーは、狭いビルの一階に埋め込まれる様にして置かれており、狭い空間になっていた。奥まった場所なだけに、人通りが多い場所とは言えず、U字の最奥に入ってしまえば覗かれない限り誰かから見られることもない。 「風間、今日変なんだけど。何考えてるんだ」  冗談にしても悪ふざけが過ぎる。流石の薫も苛立ちを隠せない様子で顔を背け、冷静さを保ちながらも低く呟く。風間はまるで意に介さず、ロッカーに両手を預けるような形で薫を追い込むと、何時もと変わらない調子で話しかける。 「まあ、いいからいいから。ちょっと顔上げてくんない?」 「お前が退いたらな」 「終わったら退くって」  暫く彼をじっと見据え無言の抗議をするが、言い出したら聞かない風間は一向に譲ろうとする気配がない。正当な抗議だとは言え、何も生み出さない主張の張り合いでエネルギーを消費したくないタイプの薫は、最終的に自分の主張を早々に諦め、長い溜息を吐き出した。

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