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第3話ー4
薫は、衝動を抑える様に拳を作ると掌の内側に爪を立てた。しかし、何を我慢する事があるだろうか。そもそも、薫の積み上げてきた風間との関係とは一体何だったのだろうか。一般的な関係であれば、同性愛指向のない男がこのような行為をする事はほぼない。ましてや、これは風間から一方的にされている事なのだ、自分がそれに流されて応じた所で、何の問題があるだろう。薫の脳裏に様々な想いが巡る。
夜風がそっと風間の香りを伝える。いつも彼が纏わせている香水の匂いだ。いつも飾り程度に付ける風間の香水は、普段は分からないがパーソナルスペースに入ると仄かに薫る。そしてそこには、いつも薫が知らない女性の影が纏うのだ。
ああもう無理かもと頭のどこかで思いながら、肩口に留まっていた腕で風間の身体を下方へと力を込めて押し退ける。バランスを崩し、ロッカーの四隅を背にして地面に座り込みそうな体勢を、そのまま促すようにして覆い被さると彼の頬に片手を添える。
意表をつかれたような表情で見上げる様子に、自分から仕掛けたとしても、仕掛けられることは想定していないのかと、薫は少し可笑しくも思う。理性が遠くに行っているな、と茫とした頭で思いながらいる薫は、どこか無表情だったに違いない。
「……薫?」
「もう少しって言ったのは、風間の方だろう。」
完全に座り込んだ身体、両足の間に身体を滑らせると頬に添えていた手を滑らせ、指先を肌の上で遊ばせる。瞬きを繰り返す風間を一瞥すると、指先を顎に添えて顔を上向かせ、首筋に唇を落とした。思わず息を飲んだのか、微動する喉仏に舌先を這わせると、身体がびくりと震えるのが伝わる。予想外の事態に身体が硬直しているのか、Vネックの薄手のニットから覗く鎖骨が骨ばって、妙に煽情的だ。理性を半分手放したまま、誘われる様に鎖骨を唇で愛撫すると、甘噛みをしながら甘い蜜でも吸うように舌先で線をなぞっては柔く吸い付く。
「…おい、薫。」
流石に状況を理解したのか、思考を引き戻した風間が薫の名前を呼ぶ。その声を無視すると、鎖骨の少し下の薄い皮膚を薄く噛み、強めに皮膚に吸い付き痕を残した。
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