16 / 39

第3話ー5

「―ッ、…何、してんだよ。痕付けんな」 「どうせ直ぐ消える。それに、付けた所でお前は、…誰のものにもならないんだろう」 「…お前、ちょっとキャラ変わってないか」 「風間に見せない俺も居るからね」  咽奥から籠った吐息を吐きだすと、風間をゆっくりと見下ろして呟く。少し困惑した表情が視界に入って、遠くに行っていた理性が薫を制止する声が聞こえる。しかし、身体は欲望に忠実に動いてまるで操り人形の様だ。  地面に付いている両手に自分のそれを重ねると、彼を逃さぬよう手首を強く握り込む。一瞬固まった風間が、視線のみをそちらへ移した次のタイミングで、薄く開いた唇に初めて自分から口付けると、逃げるように引っ込む舌先を追って絡めとった。 「…ッ…、」  眉根を寄せて微かに身じろぐ表情を見守りながら、ヒートアップしていく熱に逆らうことなく、腔内を舌先で丹念に愛撫すると、風間の身体が弛緩した。押さえていた両手を離す代わりに、彼の肩に腕を回して逃げ場を無くすよう抱き込む。 「…薫、苦しい、って」  薫の欲望の性急さに付いていけないのか、それともリードされる事には慣れていないのか、乱れた吐息がやけにクリアに鼓膜へ響いた。風間が苦し気に訴えている言葉を薫はただの音として聞き流し、息継ぎのタイミングを無視して追い上げる。  風間が縋る様に薫の身体に腕を絡めてきて、彼がが先ほど仕掛けた恋人同士の様なキスとは異なり自分はまるで性欲丸出しだ、と思いながら、薫は自分の欲深さを自覚した。  絡めていた彼の腕が力なく地面に落ちて、コン、と骨が響く音がした。抑制が上手く効かず衝動的になっていた脳内に、その音が籠ったように現実感を伴って内側で響く。  薫は漸く唇を解放すると、気怠そうに身体を弛緩させ、目を瞑ったまま肩で荒く呼吸を繰り返す姿を見下ろした。  外気の風が理性を押し出していた熱を少しずつ冷まし、徐々に冷静さが戻ってくる。  首元から覗く鬱血の痕を視線でなぞり、そのまま言葉を探す様に彼の身体に泳がせてみる。取り戻せないような後悔と、一種の腹を括るような気持ちと、触れたいという想いと、いっそのこと知られてしまえばいいのに、と思う感情と。  ごちゃ混ぜになった頭で何も出来ずに居ると、風間がうっすらと目を開いた。

ともだちにシェアしよう!