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第3話ー6
「…お前さ、俺、花粉症なの、知ってるよな?」
唐突かつ場違いな言葉。他にもっと言うことがあるのではないだろうかと思いながらも、薫はぎこちなく頷く。風間は数年前から花粉症に悩まされており、当初は花粉症の薬を頑なに拒んでいたのだが、花粉の影響力が凄まじかった去年、ようやく音を上げた。それ以降は必要時、素直に服薬している。
「まあ…知ってるけど…」
「いま4月。年によるけど、今年はまだ飛んでんだよ。スギとかヒノキとか」
あと、イネなんてやつもいるなとぼやきながら、風間は片足を立てると右腕をそこに置いた。薫は気まずさを覚えながら身体を引き、転がり落ちたままだった風間の鞄を手に取ると、距離を取る様に立ち上がりロッカーに寄りかかる。
「…へえ。」
「へえ、じゃねぇよ。この時期はそこまで酷くないから薬は飲まないけど、鼻詰まりが時々あんだよ」
「あー…うん。そう、なんだ。」
薫は、自分が取った行動の整理も、対応も、風間が言わんとしている事も。何一つ纏め切れないまま曖昧な返答をした。その様子を知ってか知らずか、風間が苛立ったように頭をくしゃりと乱し、ジーンズのポケットから煙草を取り出して火を点ける。
「薫のくせに察し悪いな。酸欠で頭が働いてない訳じゃないだろ、お前は。」
「…悪かったな」
涼しい顔で、先ほどの応酬を挟んでくる風間である。薫としては、歯切れが悪い返答しか出来ない。
「あのな、俺いま若干鼻通り悪いの。口塞がれたら、鼻で呼吸があまり出来ないわけ」
「……。ああ」
「ご理解頂けたようで何より。」
満足そうな笑顔を作ると、煙をふっと吐き出す。薫は事態の収拾を付けられないまま、ぎこちなく身体を向けると恐々と口を開いた。
「えっと…それだけ?」
「なんだよ、俺の感想を聞きたいのか」
「いや、そうじゃなくて」
「薫は意外と強引だということが分かった」
生真面目な顔をして答える様子に、呆気に取られ何も返す言葉が浮かばない。
「なに、お前って男側なの?」
「…は?」
「ほら、何かあるだろ。タチとか何とか、そっちルール」
あるだろ?と問い掛ける彼に、どこでそんな言葉を覚えたのかと訝しると、それを察したように、現代は調べれば何でも分かる時代だ、俺がどこで何を知ってもおかしくないと言いながら得意気に笑う。
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