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第4話ー2
「どうしたの?」
「いやお前がどうした。そんな深窓の美少年みたいに溜め息吐いちゃって」
長谷川は弾けるような笑顔で言いながら、近くに植えられた植木の葉を適当に毟る。窓を腕で押しやるように大きく開くと、その葉を薫に投げ付けてから、窓枠に腕を落ち着かせた。薫はその行動に微笑を崩す事なく内心で若干の煩わしさを感じる。長谷川は元来素直で争いを好まない性格だが、他者とのコミュニケーションを過剰に取りたがる上に、その距離感があまりにも近い。悪気がない分たちが悪いとも言えるが、そのありのままのキャラクターが好かれている部分でもある。
「さすが幼馴染、やる事が一緒」
長谷川は江東区出身だ。埋立地である江東区は開発が進み、今現在は以前の面影はまるでなく、あるべき場所に、あるべき物を配置して作りましたと言わんばかりの、すました地区となっている。ビルが連なるその場所は、遠目から見るとマンションなのか会社のビルなのか判断が付きにくい。一般的に、比較的裕福な層である事は間違いないだろう海が一面に見渡せるというマンションで、長谷川と風間は幼少期を共に過ごした。
「あ。風間の調子どうよ、まだダウンしてんの?」
「…ん、とりあえずあと5分強で授業開始」
「えー、俺ここでもう授業受けるわ」
「窓閉めていい?」
「あ、酷い」
けたけたと笑い声を上げる長谷川が、窓から身を引いて、始業開始前で人気が少なくなった通路へと足を向け出す。薫は小説を鞄にしまうと、ルーズリーフとボールペンを取り出しついでに、スマホを手にして画面を見る。昨夜、梓に送った連絡の返信がまだない。まめに返信する彼女にしては珍しいなと思いながら、講義室内を見回していると、後方から足音が聞こえ振り返った。
「…あれ、どうしたの」
本日二回目の言葉、馴染のある黒髪が目に留まる。自主休講すると豪語していた風間だった。
「どうしたとは何だ。学生には授業に出席する義務がある」
あっさりとした表情で言ってのける彼である。そのまま薫の隣1つ開けて席に着くと、背凭れに身体を預けて眠そうに欠伸をかみ殺している。どんな心境の変化があったのか知らないが、相変わらずのマイペースぶりを発揮している彼をぎこちなく横目に流し、普段と変わらない態度を再確認する。それから、いつもの気分屋かと納得すると再度講義室内を見渡した。
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