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第4話ー3
「弥生さん、来てないんだよね」
「ふうん。何か用事でもあるのか」
「いや、昨日途中までしか見送れなかったから。ちゃんと帰れたかなって」
「紳士的なことで。」
あまり関心がないというよりも、立ち入らない様に話しているのか、深追いする事のない様子を察して薫も話を切り上げる。ちょうどそのタイミングで、慌ただしい足音と共に長谷川が駆け込み、風間の後方に鞄を無造作に落とした。
「おう、今日休むかと思ってた。お前普通に元気そうじゃん!」
「おー、お陰様で」
後方の席から長谷川が顔を覗かせ、風間がそれに笑って応えて見せる。幼馴染なだけあって、気軽な仲といったところか、2人の会話はテンポよく、長谷川の距離感もより近い。適当な雑談をかわしている二人を見守っていると、不意に長谷川が風間の首元に目を留めてにやりと口角を上げた。
「お前、生活乱れ過ぎじゃね?」
「それは自覚済みだ。」
「やー、いつも以上に。お前にしては珍しいなあ、やらしー奴め」
それ、と指先で指摘した箇所は、上から覗かない限り服に隠れて見えない位置だったが、当人である薫は何を指摘しているのか瞬時に理解し、心臓が飛び跳ねるような心地で一瞬身体を強張らせる。そんな心中を知らない長谷川が、じゃれつくように肩口のシャツを指先で捲り、ほら薫見ろよ、と愉しげに誘ってくる。傍から見れば、子どもっぽい戯れのひとつだが、当人の薫としては何を返していいか分からず目を伏せて苦笑するしかなかった。
「…ああ、うん。」
何の意味もない相槌を返した薫に不服だったのか、風間の衣服に手を伸ばしたままで、彼がシームレスになった中央の席へと身体を滑らせ移動してくる。
「反応薄いなあ、薫こういう話苦手だっけ?いつもならスパンと、こう…小気味よく切り返してくんのに」
長谷川がもどかしそうに言いながら、オーバーリアクションをとっている。ピンと伸ばした掌で空を切る動作は、彼なりの表現方法である。
「おい、いつまで人の服そうしてんだよ」
風間が後ろ手に左手を伸ばすと、前のめりになっている長谷川の首を腕で覆うように引き寄せる。そのまま腕を利用して首元を軽く締めると、長谷川がギブアップとばかりに両手を上げてひとまず大人しくなった。
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