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第4話ー5

 目の前で花のように笑う梓に微笑み返してから、薫は顔を前方に戻した。男女の関係であっても、葛藤や迷いがない訳ではない。当たり前の事実ではあるが、それでも、同性同士の場合は男女のそれと異なる次元でどこか孤独を感じるものだ。例え付き合っていても、2人の世界が確立しているとしても、その世界は狭く、息苦しい。狭い空間で、互いが互いを引き寄せ合い、圧力を増していずれ破裂する。  同性同士は、そのような関係性に陥ってしまう可能性が多々ある事を、薫は今までの惰性な付き合いでも既に学んでいたのだった。それでも、気持ちを表現した先が想像できなくとも、薫は風間に恋をしている。  片肘を机に乗せて、疲れたなあ、と息のみで独り言ちてみた。室内にマイクを通して教授の声が響き渡る。大きく開いた窓からは温かい日差しが差し込んでいる。教室内を埋め尽くす学生の様子は昨日と何も変化がなく、連続的に続く日常の一コマに見える。  音にせず零した薫の呟きを拾って、風間がちらりと横目に薫を留めた事も、後方の席に座る梓が、風間の視線の先を追って、前方の2人の関係性に何らかの想いを抱いていた事も、いま気付く者は誰も居なかった。  * 「あー。よく寝た~」  開口一番、長谷川は大きな欠伸と共に無邪気な声を響かせた。教授がその声に渋面を作っているのが目に留まったが、薫はそれに気付かなかった振りをして鞄に筆記用具をしまった。 「風間、ノート見して」 「レッドブルで手を打とう」 「たっけーな。煙草一本」 「ちょうど切らしてた。んじゃ、交換」  ほい、と風間が空になったアメリカンスピリットのふたを開ける。長谷川が素直に煙草を落として、代わりにノートを受け取った。ざわついた室内には開放感が溢れ、学生達は外の陽気に誘われたように我先にと飛び出していく。

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