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第4話ー6
今日はアルバイトの予定だった。薫は友人に頼まれて臨時アルバイトをする事もあるが、今日はメインのアルバイトで、文京区にある一診体制のクリニックだ。そこで受付業務をしている。
「薫ー、今日何時に帰る?」
風間が腕を伸ばしながら気怠そうに問い掛けてくる。肩口からちらりと痕が覗き、内心穏やかではいられなかったが、表面上穏やかさを取り繕ったままで鞄を手に取り立ち上がった。
「9時前かなあ」
「俺もその辺りに帰るか。飯買っとく」
薫が不在の間、大人しく家に居る事がほぼない風間である。今日も何かしらの用事があって出掛けるのだろう。特に行先を詮索する事もなく、薫は何時も通り頷くと微笑を返した。
「…っておい、風間!今日の分、ノート何も書いてないじゃん」
「当たり前だろ。今日はグループ発表。書く必要ないからな」
「煙草返せ!」
「残念だったな」
ひらりと手を振って長谷川をかわし、調子良く笑う風間である。
次の講義があるという長谷川を残し、駅までの遊歩道を歩く薫と風間である。午後の温かい陽気に誘われた様に、風間はしなやかな手足を伸ばして悠々と少し前を歩いている。落ち着いた住宅街は、同じ様に帰路を辿る学生達がちらほらと居て、みな思い思いの青春を謳歌しているように見えた。
「あの、芳野君…!」
ふいに後方から名前を呼ばれて振り返ると、少し遠くの方から梓が小走りに近寄ってくる姿が見える。何か急用でもあるのかと態勢を向き直すと、風間もそれに倣うように足を止めた。ふわり、と。また甘い香りが風に乗って届く。
息を軽く切らして近寄ってきた梓の頬が、上気して僅か桃色に色付いている。薫は、数秒落ち着くのを待ってから、頭一つ分低い彼女の目線に合わせる様に微かに上体を低くした。
「どうかした?」
申し訳なさそうに少し眉根を下げて薫に視線を向けた彼女が、隣に居る風間に視線を移して、今気付いたと言わんばかりに瞬きをした。
「…あ、それと、風間君。」
「おう、ついでみたいな言い方だな。薫、俺先行くから。また後でな。」
梓の言葉に朗笑し軽く手を振ると、風間は2人を置いてさっさと歩いて行ってしまった。
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