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第4話ー9

 風間が未だ帰宅していない事は一目瞭然である。少し寂しいような、どこか安堵するような、曖昧な感情を抱いたままでリビングのスイッチを点けると、キッチンに食材を置いてビールのみを冷蔵庫へと入れた。そのままシャワールームへと向かうと、部屋着が用意してある事を確認してから早々にシャワーを浴びる。  湯気で曇った鏡には、首元に薄く色付いた痕がうつっているのが分かる。鏡に手を伸ばし、それを愛撫するかのように指先で撫でると、曇りが一瞬消え去った鏡には鮮明な痕が覗いた。どのような流れでこうなったのか数秒振り返り、付き合っていた事実を話した後だったと思い出す。薫はシャワーを止めると、浴室をそのまま後にした。  カシャリ、と。缶ビールのプルを開けて、ソファを後面に薫はラグマットへと腰をおろした。薄い毛布一枚を膝にかけ、惰性でテレビの電源を入れる。ホラー系の洋画が放映されていた。キリスト教の原罪をテーマにしたような作品で、ホラー好きの薫はビールを飲みながら何もない一人の時間を愉しんだ。物語の終盤に差し掛かり、温くなったビールを飲み干してウィスキーに切り替えた所で、玄関の鍵が開く音と共に足音が近づいて来る。 「お疲れー」  ビニール袋を手にした風間が、気怠そうに低く呟いてリビングへと入ってきた。 「おかえり、風間の大好きなホラー映画やってるよ」 「馬鹿言うな、昼ドラの方が数倍マシだ」  げんなりとした表情を浮かべた風間が、ビニール袋から弁当を取り出してローテーブルに並べる。薫は冷蔵庫からアサヒビールを取り出し、風間に手渡す。何も胃に入れないままアルコールを飲んだせいか、身体がふわりとするような浮遊感がある。 「お、さーんきゅ」  軽くぶつけた缶とグラスが、かちりと軽い音を立ててなった。薫は再度ラグマットに座り直すと、彼もそれに倣うように隣へと腰を下ろした。隣で缶ビールを一気に煽る様子を眺めてから、ひとまずチャンネルを無難なバラエティ番組へと切り替える。室内に司会者のけたたましい声が響くのと対照的に、隣から長い溜息が聞こえて、薫は自らの片膝を抱える様に腕を回すと、膝に頬を乗せて風間を軽く覗き込んだ。

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