31 / 39

第4話-11

「そ?まあいいけど。たまには俺も、誰かに癒して欲しいよ」  あえてあっさりと返してみる、感情を乗せない程度に。風間の言う通り、アルコールが少し回っているかも知れない。薫は自分の状態を自覚しながら、酔いに引っ張られないよう軽薄なバラエティ番組の言葉を1つ1つ耳で拾い聞き取るという、空疎な作業に集中した。 「誰かって、梓か。」 「ん?」 「梓、お前のこと好きだろ。今日なんか、ずっとお前のこと気にしてたし」  デートでも誘われた?と、含み笑いで聞いてくる彼を一瞥して、前方にただ視線を流すとソファに手を引き戻した。このまま腕を回して彼を引き寄せれば、抱き締められる位置に居るなあと頭の片隅で考える。 「残念ながら、誘われていないよ。弥生さんはおっとりしているし、見ていて確かに癒されはするけどね」  薫は、全てを言わない程度に彼女についての言葉を返した。バラエティ番組はただただ、軽快に言葉を羅列しているだけで少しも役に立ちそうもない。薫は無駄な時間を費やす事を早々に諦めて、弁当を手に取ろうとした。が、彼が寄りかかったままの体制では上手く食べられそうもない。 「なるほど。お前は案外、関心のない人間には割とクールだ」 「何が。そんな事よりもね、夕飯。食べたいなあって」  今現在の体勢を彼に自覚させるように、軽く肩を叩いて離れるよう促す。が、風間は知らん顔で缶ビールを飲みだす。 「酒がまだあるだろ」 「…はいはい。」  それ、と示された手元のグラス。薫は仕方なく残りを一気に飲み干すと、空のグラスをテーブルに置いて見せた。彼はそれに、相変わらず素知らぬ振りを決め込んで、動こうとしない。こういう時の風間は意外と頑固だ。促す事はもはや諦めて、ひとまずそのままの体勢で好きにさせておいた。  酒を一気に煽ったせいか、身体が妙に火照っているのを感じる。熱を吐き出すように微かな溜め息を吐くと、傍らのスマホが軽快音を立てて主張した。手に取り画面表示を見ると、梓からグループワークに関する質問が届いている。 「薫」 「んー?」  利き手ではない左指で慎重に文字を打ちながら、薫は呼び掛けに対し適当に相槌をうった。そこから先の返答がなく、あえて次の句を続けずに居ると、ふいに頬へと指先が絡まる。咄嗟に顔を向けようとした所で、香水に混じって彼の肌の匂いを近くに覚えた。

ともだちにシェアしよう!