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第4話-12

 柔らかく重なった唇、ぼやけた視界の先に風間の姿を見留める。一瞬、心の裡で燃え上がるような熱を感じたと同時、瞬時に沈下する。風間が離れていくのを辛抱強く待ち、瞼が開いた事を確認してから微笑を浮かべて見せる。 「…何のつもり?」 「癒し提供。」  悪びれることのない飄々とした態度。唐突過ぎて予測ができないのは相変わらずだが、今回ばかりは流石に苛立ちを覚えた。スマホを手にしたままの指先はアルコールで気怠く、手の中で扱う程度に設計されているはずのそれすら今は重く感じる。テレビはいつの間にか一日を振り返るニュース番組が無関心を装うように流れており、奇妙なバランスで冷静さを保っているかのようだった。 「悪いけど、全く癒されない。」  苛立ちを微笑に隠して、腕で彼を押し退ける。その腕が逆に掴まれて引き寄せられる。暫く無言の押し問答をした末に、風間が身体を起こしながら薫の両手首を掴んだ。そのまま隙を見せる事なく薫の両膝に跨ると、ソファに肘をつかせるようにして肘関節から上腕部を軽く抑える。 「それなら、俺が癒されたい気分」  何がどう“それなら”なのか。薫はソファに添え付けられた腕を目端に捉えながら、そのまま視線を下方へと落とす。そこから考えを深める数秒を待たず、風間が再度顔を近付ける動作に思わず顔を伏せた。 「…勘弁して。お前の悪ふざけに付き合える余裕なんか、今ないんだよ」 「そんな深刻になるなって、何度か経験済みだろ」  予想外に硬質な声が出て、薫は失態を隠す様に思わず唇をきつく結んだ。風間はそれに対し相変わらずの調子で返してくる。吐き出す言葉を持たず、感情が思いのまま爆発しそうだ。ただでさえコントロールが上手く効かないブレーキを、薫はいま修正する術もない。  照明を落とした室内はテレビの明かりだけが唯一の明かりで、その薄暗さは薫と風間の境界線を曖昧にする。腕を掴む彼の、少し高い体温が薫の衣服越しにじんわりと伝わってくる。 「――風間。俺が、男とも付き合えること。…知ってるよね?」  忠告のつもりだった、少なくとも薫にとっては。

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