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第4話ー16

 ふと、身体の下で風間が小さく震え、次第にそれが僅かに笑みを湛えた音へと変化しようやく、彼が笑っている事に気付く。 「…なんだよ」 「いや?そんなこと言われた経験がないもんで、つい。」  風間は愉快そうに笑いながら、何食わぬ様子で体勢を起こし胡坐をかく。 「もうちょっと焦るとか、…リアクションないの。ここまでされたら普通は戸惑うと思うんだけど」 「まあ、別に…」 「別にって…ああ、そう…。まあ…風間らしい返答ではある…よね」  薫は歯切れの悪い返答しかできず、思わず脱力してしまう。2回目で慣れたのか、そもそも慣れるという次元の話かはさて置いて、平生と変わらぬ反応をする彼を見ていると、このままの勢いで想いを伝えてもそのまま受け入れられるのではないか、とさえ思ってしまう。素気無くナチュラルに、恋愛感情については拒否される事も想定できるが。 「お前はいつも俺の批評を受けたがるな」 「や、批評を受けたい訳ではないんだけれど」  しかも『いつも』ではなく2回目だし、と。薫は胸の内で付け加える。 「なんだ、指南して欲しいのか」 「…謹んで辞退します。そうじゃなく、…よく、そんな普通で居られるな、と。まあ、思って。危機感がないと言うか」  それを聞いた風間が、へえ、と小さく笑って膝立ちになったままの薫を下方から覗き込んだ。どこか愉し気な口許に笑みをつくり、涼し気な瞳が覗き込んでくる。 「そんなに、危機感持たなきゃいけないようなことを。俺はお前にされそうだったわけ?」  揶揄うような言葉だったが、薫は思わず黙ってしまった。時間にしたら数秒にも満たないものだ。頭の中で2通りの選択肢が浮かぶ。いつも通りの会話の延長線上で、軽目の言葉を押し通そうか。それとも。

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