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第4話-17

 薫は膝を立てたままで、片手をソファへ預けると、もう片方の手を風間へと向け、指先を胸元のシャツへと絡ませた。 「…されそうだった、とか言ったらどうするの。」  無難な選択肢を投げ捨てた薫の、慎重な声が室内に響いて、それを聞いた風間が意外そうに目を細めた。それから、ゆっくりと口角を持ち上げ笑うと、薫を正面から見据えて口を開く。 「やれるもんならやってみろよ」  たっぷりと余裕を含ませて吐く言葉はどこか挑発的だ。薫はシャツに絡めていただけの指先を下方へと下げて、上衣の下に隠されていた痕を露にする。日を跨いだその痕は昨日より色濃く変化している。その痕を思い知らせるように、軽く音を立てて口付けを落とした。 「じゃあ、…今からしてあげようか?」 「あ、無理。腹減ったから飯食いたい。」  風間はさっぱりと言い、ひらり掌を返すように指先を払った。いともあっさりとした却下である。そのまま身体を押し退け本当に弁当の蓋を開け出したものだから、流石の薫も思わず苦笑するより他にない。 「お前も食べれば?」 「…お前が遮ったから未だにあり付けていないんだけどね」 「そうだっけ」 「今更だけど、本当にマイペースだよね。お前。」 「他人をあまり気にしていない事だけは確かだな」  床に座り込んだまま飄々と言ってのける彼を眺めながら、薫も仕方なく弁当を手に取ってソファへと腰を下ろした。はぐらかしているのか、それとも単純に空腹だっただけなのか。今となってはもう追及する空気でもない。  薫はアルコールが入って眠い頭を軽く振って、溜め息を吐いた。唐突にバイブ音が鳴って、机上に置かれたままの風間のスマホが光り出す。目に留まった画面には着信先の相手が表示された。戸田康行(とだやすゆき)、と表示される名は薫の知らない人物だったが、女性からの着信でない事にほっとした。女性から連絡があればそれは大抵”不健全なお付き合い“をしている女性であり、風間の気が乗ればそのまま出掛けて帰らない事が多いからだ。

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