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第4話-18
「…出なくていいの?」
2度目の着信があって、薫が控えめに問い掛ける。
「ん。俺に用事はない。」
食べ物を口に淡々と運びながら風間が答えた。薫は「そう」と呟いて、ソファに背を凭れ掛ける。食欲がない。気持ちが暗いというよりは、ただ単純に急激に変化する自身の感情に触れて、少し疲労しているのだった。目線だけをちらりと向けて眼下の彼の姿を見下ろす。さらりとして涼しげな顔立ちの彼は、笑うと一見爽やかな好青年に見える。実と見た目が伴っているとは言い難いが。
しかし最初から、その容姿は何となく薫の好みだったのだ。その顔が、あのような表情を浮かべるとは。薫は先程の彼を脳裏に思い浮かべながら、一切手を付けていない弁当を机上に置き直した。
「食べないのか?」
テレビを見る事と食べる事とに集中していた風間が、ソファに頭を置くようにして薫を見上げた。呑気なものだと思いつつ、顔には微笑を浮かべ視線を落とす。
「考えごと。」
端的に理由を述べると、両手をソファの背面に回して腕を彼から遠ざけ手持無沙汰に軽く揺らす。
「お前って、何考えてるか分からないよな。肝心なこと言わなさそうだし」
「それを言うなら、風間の方こそ見当がつかないよ」
「俺は考えるより行動派」
「なるほど、考えずさっきの行動に至った訳ね」
「興味あったから」
「何に」
「薫に。」
「…へえ。」
ぴたり、と両腕の動きを思わず止める。風間がソファに頭を乗せたまま、弁当の容器も机上に戻すと同時に、しつこく3回目の着信音が鳴り響く。
「因みに、それ、…どういう意味?」
徹底的に無視を決め込んでいる着信のバイブが、どことなく気持ちを焦らせるように振動する。瞼を穏やかに閉じた彼は、顔を横に向けて暫く考えてから口を開いた。
「さあ?だから行動してみた訳だ」
薫の反応を置き去りにした彼がそう言いながら、身体を這わせ唐突に頭を軽く薫の膝の上に乗せた。突然のその行動に戸惑いただ見詰めていると、彼が小さく笑息を吐いて髪を揺らした。
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