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第22話
「へぇ、気が利くじゃん。先生」
「生徒には優しく接する主義だからね」
「は?でも、昨日は全然優しくなかった気がするけど」
「それはそれ、これはこれ、さ。」
「ふーん、都合いいもんだな」
俺の言葉に土屋は誤魔化すような笑みを浮かべ、俺に携帯を渡すと先程と同様ベッドの上に腰掛けてきた。
―きっと全て兄貴からのものだろう。俺がどこかに泊れば連絡有り無しに関わらず、夜から朝までメールと電話攻めだから。
「...え?ひより、から...」
...と、思っていたのだが、画面に写し出された名前は全てひよりからのものだった。
その数は数十件にも及んでいて、少し異常な光景だった。
そのせいでドクリ、と変な予感を感じ心臓がうるさく鳴り始める。
「...ちょっと電話掛けるわ」
「はい、どうぞ」
すぐに俺は履歴からひよりの番号を出し、かけ直す。
―何だ、この胸騒ぎは。
いつもと違う日常。何かが...変化したのか?
「あっ...もしもしひより。電話出れなくて悪い、渉だけど...」
Prrrr...とワンコール鳴ってすぐにひよりは出た。しかし話している途中でひよりはひどく沈んだ声で俺の名を呼び、
『――――っ、』
「....は?どういう...ことだよ。意味が...」
だが、それ以上聞こうとするとひよりは大声を出して泣き始め、そのまま電話切ってきた。
ツーツー、と鳴る機械音。暗くなる画面。俺は未だに状況が上手く掴めず、茫然としていた。
「どうかしたの?渉君」
すると、そんな俺を見て土屋は心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。
でも俺は焦点の合わない目でしか土屋の顔をとらえられなかった。
喜びとも何ともいえない複雑な感情が胸を占める。いまだに信じられない。こんな...現実...。
ー
ーー
ーーー
「兄貴が...自殺して死んだって、」
その言葉は静まった室内でやけに大きく聞こえた。
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