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第23話
「はっ...あっけねぇの、」
俺は1人火葬場から出て、深く外の空気を吸う。外には俺以外いないはずなのに未だに俺の耳にはすすり泣く声や兄貴の早すぎる死を惜しむ親族の声がはり付いて離れない。
『歩じゃなくてあんたが死ねばよかったのに!!』
そう言って俺の頬を手の平で打ってきた母さんの歪んだ顔も忘れることなく俺の眼に焼き付いている。
「チッ...」
ズキっとその時切れた口の端が痛み、俺の苛立ちは増していく。
ひよりからの電話を受け取ってすぐ、家に帰った俺を見た母さんはヒステリックに泣き叫び手を上げた。
近くにいた親父は母さんの暴言も暴力も見るだけで止めようとはしなかった。
止めたのはひより。泣き腫らして目を赤くし、枯らしてしまった喉に無理をして母さんを止めた。
―俺の...せいだったのか。やっぱり、
頭をよぎるのは家を出る直前に兄貴に向かっていった一言。
俺が死ねって言ったから...あいつは死んだのか?死んだら好きになってやるって言ったのをバカ正直に信じたっていうのかよ。
―死んだらそんなの意味ねぇって事に気がつかないのか。こんなこと考えなくてもわかることだろ。
そんなことも分からないほど...あいつは狂っていたのか?
「...っ」
胸にドロドロとした後味の悪い感情が滞って離れない。
兄貴の死。それは今までずっと願っていたことだった。それが叶った。...それなのに思っていたような喜びはない。
しかし別段、兄貴の死に対して悲しいわけでもないし後悔しているわけでもない。
ただ...まるで兄貴を俺の手で殺してしまったような錯覚に陥る。
―なんで俺が罪の意識を持たなければならないんだ。あいつが...勝手に死んだだけなのに。
兄貴は首の骨が折れた状態で死んでいたらしい...自分の部屋の、ドアのすぐ近くで。
その話を聞いて俺は1つの考えが浮かんだ。
―兄貴は俺が出ていってすぐ、その場で自分の首の骨を折って死んだのでは、と。
兄貴は異常だった。だからその推測がすぐに浮かんだ。
そもそも自分自身で自ら首の骨を折るなんて...そんなこと普通に考えたらありえないことだ。
首つりや飛び降りではなく、自分の手で自らを死へ導く。
よほどの決断が無い限り、常人にはできないことだ。
「...俺は、悪くない。悪くないんだ」
兄貴の、決断のきっかけは...俺じゃない。俺は、何も悪くないんだ。
だが、そう考えれば考えるほど俺の胸は締め付けられるかのように苦しくなった。
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