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第26話
服を脱いだ俺は馬鹿らしいと思いながらも先程のことが気になって脱衣所の電気もつけたまま浴室に入る。
「はぁ...」
シャワーの温かい湯を頭から浴び、顔を軽く両手でこする。
そうしているとまるで体に纏わりついた嫌なもの全てが流されていくような感覚になり、徐々に頭がスッキリとしていく。
――さっきのことは...土屋との笑い話か何かにしてしまおう。深く考えるのはやめだ。考えたってしょうがないのだから。
そう考えながら湯にあたっていれば、不思議と恐怖心もなくなり、何だか先程までの自分自身の言動が気恥ずかしく感じてきた。
あんなに慌てて...土屋だって驚いたはずだ。
...俺らしくもない、あんな姿。
数分前の自分の姿に対して軽い笑いが込み上げてくる。
「...そろそろ、出るか」
そうしていつもの調子を取り戻せた俺は、もうすぐ来るであろう土屋を出迎える為に浴室を後にしようとシャワーのノズルを止めた。
キュッ、というノズルの閉まる音。そしてポタリ、と俺の髪の毛から滴が落ちた――その時、
「...ぁ、また...っ、」
浴室と脱衣所の電気が消え、真っ暗になると足の指先から頭の天辺まで一気に体が硬直した。
それはつい先程、体験したものと同じものだった。
しかし、先程と違って視界は何も見えず、あたりからは何の音も聞こえない。
「...っ、...、」
逃げ出したくても体が動かない。恐怖から生まれた声も出すことができない。
―ヒタ...ヒタ、ヒタ...
「...っ!!」
急に冷たい何か...手の平のようなものが足、そして腰の方へと触れていき、俺は恐怖から目に涙の膜を張らせた。
―いや、だ...いやだいやだいやだっ、
溢れるほどの恐怖心で胸が張り裂けそうになる。再び心臓がバクバクとうるさく鳴り始めた。
―助けて、助けて...誰か助けてくれよ...っ、
徐々に上がっていく手の感触。温まっていた俺の体も、その手が触れていった場所から順に冷えていく。
そしてついにその手が頬に触れ―――、
真っ暗だった電気がチカチカと点滅し....
漸く暗闇から僅かに明かりを受け止めた俺の視界いっぱいに、
「 ワ タ ル 」
首の折れた、兄貴の姿が写った。
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