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第40話※土屋視点
―渉が停学処分になった。...っといっても、生徒3人が立てなくなるほど過剰に殴っていればそうなってもしょうがないことだが。
元々、渉は見た目からして素行が悪いだろうということは分かっていた。しかし、
「まさか友人をボコるとはな、」
渉は不良だがはっきりとした意志を持っており、無意味に友人を傷つけるような奴ではない。
きっと4人の間で何かがあったのだろう。あれほどの暴力を一方的に振るうような理由が。
―まぁ、そんな理由は正直俺にとって全く関係ないが。
目的地に着き、俺は車を止め外に出る。
目の前にあるのは渉の家。多分、今頃ケンカによって傷ついているであろう渉に会うために俺はここまで来た。
弱っているうちにもっと深くまで渉と関わって自分に懐かせよう、そう思って俺は行動していた。
所詮は研修期間内の暇つぶし。だけどどうせ遊ぶなら最高に楽しみたいものだ。
そのためならいくらでも笑顔を向け、優しく接してやる。
―俺も漸く運がついてきた。
偶然渉がいるここに研修生としてやってきて、そしてタイミング良く死んだ、兄の影におびえる渉をすんなりと、簡単に懐かせることができた。
いや、これは必然か。
なぜなら俺は人の上に立つべき存在だから。
この流れは起きて当たり前のことなんだ。俺は前の栄光ある俺に戻ってきている。
自然と緩まる頬。
ゆっくりと手を伸ばし、チャイムを鳴らした。
「...入れよ。部屋にいるから」
玄関の扉を開けたのはやはり渉だった。そして渉はそれだけ言うと、スタスタと階段を上がって自分の部屋へと入っていった。―― 一度も俺と目を合わせることなく。
よっぽど今日のことで頭を悩ませているのか、と俺は渉を止めることなくただただその背中を見ていた。
そして靴を脱ぐとその跡を辿るようにして俺は渉の部屋へと向かった。
ー
ーー
ーーー
「渉君、なんで喧嘩なんかしたんだ?」
「...それは...その、あい...つらが、あの...、」
相変わらず目を合わせようとはしない渉にそう問いかけるが、当の本人はらしくもなく、言葉を口の中でつまらせる。どこか弱気で、おどおどしているようにも見えた。
「はぁ...」
それは不意に出た、俺のため息。厭味ったらしいものではなく、本当に特に意味のないものだった。
だけどそのため息に過剰に反応する人間が目の前にいた。
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