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第41話

 グッと、近づいてきた渉に手を握られる。  緊張しているのか、その手は汗でしっとりと湿っていた。  「あき、れたか?俺の面倒見るの、疲れた?やっぱり周りの奴らが言ってるみたいに土屋も...土屋も兄貴じゃなくて、何の才能もない俺が死ねばよかったのにって思った?」  渉は震えた声で、しかし先程とは違い饒舌にそう話す。  不安を吐き出すその姿はやけに小さく見えた。俺に見捨てられるのが怖いのか、依然として俺とは目を合わせず下を向いたままだった。  「今日だってそう。ダチだと思ってたやつらにまで見捨てられてたってわかったんだ。だから、だから俺...――うわっ、土屋!?」  「俺はお前がいなくならなくてよかったと思ってる。周りの奴らなんて関係ない。渉君はただ俺のそばにいればいいんだ」  ―そして心身ともに俺に心酔しきったお前で俺は暇つぶしをする。  ギュッと力強く渉を抱きしめ、耳元で優しく囁く。  すると小さく震えていた渉の体は安心したのか震えるのをやめ、俺の背に手を回すと同じように強く抱きしめ返してきた。    そして俺の肩に顔を埋め、渉はゆっくり何度か深呼吸をする。  徐々に早鐘を打つ渉の心臓の音はそれとともに、落ち着きを取り戻し正常に戻っていった。  「俺...あんたがいないとダメなんだ。気が狂いそうなんだよ。全てを投げ出したくなる」  俺の肩に顔をうずめたまま渉は力なくそう呟く。 そんな渉の頭を俺は優しく撫で続けた。  「大丈夫。俺は渉君の傍から離れたりしない」  ―なんて。研修期間が終わればすぐに渉とは縁を切るつもりだが。  元々俺に男の趣味など無い。男に性欲を感じたのも渉が初めてだ。男とのセックスは単なる火遊び。  大学に戻ればまた別の女と付き合って、男を抱くことなどなくなるだろう。  「なんなら、毎日俺の家においで。夕方になったら迎えに行ってあげるよ。昼間は俺も学校に行かなきゃいけないから渉君は朝帰り、って感じになるけど」  「...本当、か?...あぁ、それで、それでいい。あんたのそばにおいてくれよ」  すると渉は嬉しそうに顔をほころばせた。 そうして漸く俺は渉と目が合う。  ―ドクリ、と心臓が大きく脈打った。  俺の言動に一喜一憂する渉に、言い知れぬ支配感が湧く。  自分だけに懐く、あの歩が唯一愛した人間を独占できる、という優越感。  「それじゃあ、さっそく俺の家に行こうか」  俺は目の前にある、その首筋に静かにキスをおとした。

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