41 / 79
第41話
グッと、近づいてきた渉に手を握られる。
緊張しているのか、その手は汗でしっとりと湿っていた。
「あき、れたか?俺の面倒見るの、疲れた?やっぱり周りの奴らが言ってるみたいに土屋も...土屋も兄貴じゃなくて、何の才能もない俺が死ねばよかったのにって思った?」
渉は震えた声で、しかし先程とは違い饒舌にそう話す。
不安を吐き出すその姿はやけに小さく見えた。俺に見捨てられるのが怖いのか、依然として俺とは目を合わせず下を向いたままだった。
「今日だってそう。ダチだと思ってたやつらにまで見捨てられてたってわかったんだ。だから、だから俺...――うわっ、土屋!?」
「俺はお前がいなくならなくてよかったと思ってる。周りの奴らなんて関係ない。渉君はただ俺のそばにいればいいんだ」
―そして心身ともに俺に心酔しきったお前で俺は暇つぶしをする。
ギュッと力強く渉を抱きしめ、耳元で優しく囁く。
すると小さく震えていた渉の体は安心したのか震えるのをやめ、俺の背に手を回すと同じように強く抱きしめ返してきた。
そして俺の肩に顔を埋め、渉はゆっくり何度か深呼吸をする。
徐々に早鐘を打つ渉の心臓の音はそれとともに、落ち着きを取り戻し正常に戻っていった。
「俺...あんたがいないとダメなんだ。気が狂いそうなんだよ。全てを投げ出したくなる」
俺の肩に顔をうずめたまま渉は力なくそう呟く。
そんな渉の頭を俺は優しく撫で続けた。
「大丈夫。俺は渉君の傍から離れたりしない」
―なんて。研修期間が終わればすぐに渉とは縁を切るつもりだが。
元々俺に男の趣味など無い。男に性欲を感じたのも渉が初めてだ。男とのセックスは単なる火遊び。
大学に戻ればまた別の女と付き合って、男を抱くことなどなくなるだろう。
「なんなら、毎日俺の家においで。夕方になったら迎えに行ってあげるよ。昼間は俺も学校に行かなきゃいけないから渉君は朝帰り、って感じになるけど」
「...本当、か?...あぁ、それで、それでいい。あんたのそばにおいてくれよ」
すると渉は嬉しそうに顔をほころばせた。
そうして漸く俺は渉と目が合う。
―ドクリ、と心臓が大きく脈打った。
俺の言動に一喜一憂する渉に、言い知れぬ支配感が湧く。
自分だけに懐く、あの歩が唯一愛した人間を独占できる、という優越感。
「それじゃあ、さっそく俺の家に行こうか」
俺は目の前にある、その首筋に静かにキスをおとした。
ともだちにシェアしよう!