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第43話※土屋視点
「いつもすいません。息子さんを連れまわしてしまって、」
「いいえ、いいんですよ。あれも将来有望な土屋さんにかまってもらえて幸せでしょう。私たちは気にしませんので、好きに扱って下さい。」
毎日の日課である行為。学校での教習が終われば渉を迎えに行く。
今日は迎えに行くとめずらしく母親が家にいた。
渉の母親と会うのはこれで2回目だった。
初めて会った時は不振な目を向けられたが、通っている大学の名前と教育実習生だ、ということを言えばすぐに目を輝かせてきた。
歩も通っていた、有名私立大学。すぐに俺の将来の地位を想像したのだろう。
前に渉が自分の両親は自分たちにとっての利益しか考えていないと言っていたが....たしかにその通りだと思った。
きっともし俺が将来、高い地位に就いた時には“渉”という、つてを伝って色々と俺に頼って媚びてくるに違いない。
「それでは、私はちょっとこれから出掛ける用事があるので、」
そういうと渉の母親は洒落たスカートのひだを靡かせ、俺の横を通って外に出ていった。
―ははっ、随分とステキなお母様のようで。
俺は閉じた扉にチラリと冷たい視線を向け、渉の部屋に行くべく家の中へと入っていった。
いつも俺が迎えに行けば渉からすぐに玄関の方へ来てくれるのだが、やはり今日は母親がいたからであろう、渉は部屋から出て来なかった。
久しぶりに中へ入っていくなぁ、と思いながら階段を上っていたとき。
「 今日もまた、渉兄さんを連れていくの?」
階段を上りきったそこには道を塞ぐようにして、渉の義妹であるひよりという女が、茫然と立っていた。
目の下に濃い隈をつくり、髪はぼさぼさ、頬はこけ、いかにも不健康といった容姿をしていた。
そして白い肌のせいで目立つのは、何かを殴ったのか、痛々しく赤く腫れあがった手の甲だった。
前に見た時は誰もが認める、美少女といえるほどの美しさをそなえていたのに。
この数日間でこうも悪い方向に容姿が変貌するとは。
「うん、そうだよ」
周りから評判の良かった笑みを向けてそう言えば、暗く淀んだ女の瞳がユラユラと揺れた。
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