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第45話

 「...あぁ、もう昼か...」  あたりには当然のごとく土屋の姿はなかった。きっと朝早くに俺を起こさないまま帰っていったのだろう。  昨日は珍しく土屋の家にはいかず、こっちで過ごした。 そのためか、セックスをすることは求められずただの舐めあいだけで夜は終わった。  数時間前まではいたであろうベッドの壁側の方に顔を埋めれば微かにだが、土屋の匂いが残っていた。  俺はその残り香を全て吸うかのように、深呼吸をした。 ー ーー ーーー  「...来ない」  夕方、いつもの時刻を過ぎついにあたりは暗くなり始めたあたり。  窓から外を眺めるが、いつまでたっても土屋は姿を現さなかった。  メールも電話も繋がらない。  そうして6時を過ぎた頃。ついに俺は兄貴への恐怖心が限界値を超え、財布だけを手に部屋を飛び出した。  向かう先は土屋の住むマンション。  土屋が来ないなら俺が行く。  土屋のいない夜など怖くて過ごせない。土屋がいないと...土屋が...。  「渉兄さん!?どこに行くの!」  玄関に着き、靴を履いていると俺の走る足音に反応したのか、居間の扉を開け、慌てた様子のひよりが駆け寄って俺の腕を掴んできた。  「土屋のところに行くんだよ、離せ!」  「いやっ!嫌よ、離さない!!今日は渉兄さんの誕生日なんだよ!?今日だけでいい、お願いだから一緒にいて。私を一人にしないで!祝わせてよ...っ、あのね、私ね、渉兄さんにプレゼント買ったんだ。ちゃんと自分で選んだんだよ?  料理も私1人で作ったんだ。お義母さんが作ってくれなくても私が――、」  「...っ、いい加減にしろ!!」  「きゃあっ!!...う゛っ、」  俺の腕にしがみつくひよりを力づくで振り払った。  するとその勢いのままひよりは壁に思い切り体をぶつけ、よほど痛かったのかそのまま体を抱え込むようにして床に崩れ落ちた。  「...っ、」  一瞬、そんなひよりに俺は動揺したがすぐに土屋のことが頭によみがえり、扉の方に体を向きなおす。  「私、待ってるから...ずっと、渉兄さんが帰ってくるまで...っ、」  痛みに耐えているのか、掠れている声。俺を引きとめるのに必死な、声。  俺はその言葉に応えることなく、扉を開け暗がりの外へと足を踏み出した。

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