―俺は１人。１人きり。 　降り始めた雨で体や髪の毛は濡れていく。あたりに誰もいないためか、やけに雨音が強く耳に入ってきた。 　力なく投げ出された手足。虚ろな瞳は焦点もあわずにさまようだけ。 　 　そんな俺に黒い影が１つ、重なった。 　ぼんやりと俺はその影の先を目で辿る。 　―あぁ、そうだった。．．．俺はまだ、１人じゃない。 　視線の先にある影から伸びる白い手。 　俺は口角を上げてそこへ歩いていく。 　近づいていくにつれ、影から浮かびあがる顔は、思った通りのものだった。 　「なぁ、ずっと．．．．ずっと、あんたは一緒にいてくれるんだよな．．．―――― 　――――　兄貴、」 　微笑する白い顔。生前と変わらないきれいに整った、見慣れた造形。 　もうすでに、何もかもに見放された俺の中に目の前の男に対する恐怖などなかった。 　そして俺の濡れた全身は影に包まれて、懐かしい体に抱き締められる。 　「あぁ、ずっと．．．一緒だよ」 　軋む体、鈍い痛み。吐き気がするほどの酷い胸やけと頭痛。それに伴って薄れていく意識の中。 　俺はその言葉を聞いて、歓喜の涙を雨とともに頬の上を滑らせた。