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第55話
意識が回復して2週間後。俺は無理を言って一時的に退院させてもらった。
まだ傷は完治していなかったが、幸い、特に手足に骨折などはなく、ある程度の動きならできた。
2か月。それは俺が事故にあってから眠っていた期間。
医者が言うには、俺がこうして生きているのは奇跡的なことだったらしい。
良くて何らかの後遺症が残る。普通なら....死んでいた。
しかも怪我の回復も早く、待つのは俺の意識の回復のみだったとも言っていた。
「ははっ、あははっ、やっぱり俺はまだあんなところで死ぬ人間じゃないんだ」
やはり俺には運がついている。俺はこの世に必要とされているのだ。
そしてそんな俺に必要な人間...――渉も、この手に。
渉を手に入れようとして歩に殺されかけた。だが、そんなことは関係ない。
殺されかけたことによって得た恐怖。しかしそれを大いに上回るほどの独占欲という感情が溢れていた。
渉は俺に執着しているんだ。この2カ月間、あいつはどう生活していたか。
「今度こそ、閉じ込めてやるよ」
向かう先は渉の家。
一時的に退院したのもこれが目的だった。
だが、しかし...
「どういう...ことだよ、」
あれから1時間後。俺は渉の家の前で茫然と立ち止まっていた。
扉や窓に貼られている数枚の紙。
そこには“売出し中”の文字。
この2カ月の間で渉はどこかに行ってしまった。
何とも呆気ない事実。だが....
―諦めない。絶対に見つけ出してやる。
俺は強い眼で家を見返した。
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