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第57話
「久しぶり、土屋」
「あぁ、そうだね」
扉を開ければ、寒さで鼻を赤くした渉がそこに立っていた。
まさか渉から自分の目の前に現れるとは思わず、俺は心の中で微笑する。
―それにしても、一体渉はどんな心境でここまで来たんだ。
俺と渉の最後は最悪なまま、後味の悪いものだったのに...
―まぁ、いい。今はそんなことなど。俺にはやらなければいけないことがあるのだから。
「中、入りなよ」
ニコリと笑み、渉が玄関の扉を閉めるのを確認して、俺は部屋へ戻ろうと背を向けた。...その時、
「ぐう゛っ...!!あ゛...っ、」
突然、背中に何かが突き刺さるような強烈な痛みが走った。
それは2度3度と繰り返される。まさに一瞬の出来事だった。
痛みが走った部分は熱くなり、ドクドクと温かい液体が流れつたう。
そして抵抗も何も出来ぬまま力なく床に倒れる俺の体。
「あ゛...っ、ク...ソ...っ、」
―なんだ、何が起こった。どうしてまた俺の体は動かないんだ。
霞む意識。
「君はいつも妬ましそうに僕のことを見ていたね」
そして目の前にかがむ人間。
「でも言ったじゃないか。渉は僕のモノだ、って」
最期に見たのは、笑う渉の顔。いや、正しくは...
―
――
―――
あの歩が浮かべていたのと同じ、歪んだ笑みだった。
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