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本編最終話

 ―ポーン...  新しい住居に鳴り響く、ピアノの音色。  いつしか、いくつもの音が紡がれ美しい音色であたりは包まれる。  「あら、ピアノの音が聞こえるかと思ったら...渉、帰ってたの?そうだ、さっき見たけれど今回もテスト、すごかったわねぇ。やっぱり渉もやればできる子なのよ。今から有名私立大学を目指すのも、遅くはないんじゃない」  「...あぁ、そうだね」  突然現れた、美しい音色にそぐわない声に眉をひそめる。  「そうそう、今日は渉が大好きな料理を作ってあげるわ!あと、何か欲しいものとかはない?何でも買ってあげる」  「いや、いいよ。お金なんて使わないで」  「何言ってるの、可愛い可愛い、自慢の息子のためだったら何でも買ってあげるわよ!」  「...じゃあ、何か考えておく、」  そう言えば、満足したのか母親は居間へと戻っていった。  そして再び、心地よくピアノを弾き続ける。  外は雨が降っており、ピアノの音色と雨音がきれいに混ざり合っていた。    「...この曲、すごく好き 」  いつの間にかやって来たひよりは、いつものようにピアノの前に座り込み、音色を聴き続ける。  「ひより、協和音って言葉を知ってるか?」  「...協和音?」  「あぁ、この曲は協和音が多い曲でね、」  チラリ、と横目にひよりを見れば、分からないといった様子で首をかしげるその瞳と目があった。  「それはさ、いくつかの音がよく調和して、ほら...こんな風に鳴る和音のことを言うんだ」  一度弾くのをやめ、2つの鍵盤を同時に鳴らす。  調和された2つの音はきれいに鳴り響く。 そしてその音に混ざるかのように聞こえる雨音。  ―  ――  ―――  「 まさに...僕と渉みたいにね、」  細まる目。上がる口角。笑んだその顔は黒く輝くピアノに、反射して刻み込むようにしてうつりこんでいた。  “ずっと...一緒だよ”    聞こえるのはピアノの音と、雨の音。  ただ、それだけだった。

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