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第31話

 日向のマンションから出てしばらく。穂波は放心状態のまま歩き続けていた。そうして歩いていくうちに、  「えっ!どうしたんすか?急に、」  「いや...何となく、」  気がつけば穂波は松高の家の前にやってきていた。  そして呼び出すだけ呼び出しておいて黙り込んでしまう穂波を松高は快く家の中に招き入れる。  家の中に入り、松高の部屋に入るまでの間、穂波は一言も口をきくことがなかった。  部屋につき穂波はベッドに腰を掛けるが、やはり何も発することはなくただ茫然とした表情をするだけだった。  「穂波先輩...大丈夫っすか、」  「あー...大丈夫じゃ、ないかも」  「大丈夫じゃないって...体調悪そうすけど、熱でもあるんじゃ...」  「...ッ!!」  イスに座っていた松高は立ち上がり、穂波の目の前まで行くとスッとおでこに手を当ててきた。  その瞬間、穂波は分かりやすいほどに肩をビクつかせ、反射的にその手を払ってしまった。  「え...っ、」  「っ、悪い...、」  その動作1つでどよめき立つ空気は重苦しく、気まずげに目線を上げれば、戸惑った様子の松高と目が合う。  だが穂波自身も自分のその反応の仕方に驚いていた。それでも原因は分かっている。  伸ばされたその手が日向に犯された時伸ばされたものと重なって見えたのだ。  ― 松高は...松高はそんなことするような奴じゃないのに、  「...やっぱ俺帰るわ。急にきちまって悪かったな。」  日向と松高を重ねて見てしまったという事実に胸を痛める。  すぐさま穂波は笑顔を取り繕い、立ち上がる。その時松高の顔をまともに見ることはできなかった。  見据える先にあるのは入り口付近に置かれている自身の鞄。  穂波は迷うことなくそちらへと歩く。  「穂波先輩!!」  「ま、松高...?」  しかし、不意に松高に腕を掴まれ、穂波の歩みは止められた。  「穂波先輩...日向先輩の家、ほとんど毎日行ってるんすよね?昨日も、行きました...?」  「...っ、なんだよ急に。そうだけど、なんでそんなこと...」  穂波は予想していなかった言動に心臓を激しく脈打たせた。下手に嘘をつけば後々厄介な目に合いそうだ、と本当のことを素直に答える。 ...が、その瞬間松高は体を硬直させ、何か確信を得たかのように目を見開かせた。  「...――じゃあ、首のキスマークは誰につけられたものすか、」  「...ッ!!」  それは、日向によってつけられたものでは?と遠まわしに探りを入れたような口調だった。  穂波は全身が驚きで鳥肌だっているのがわかった。 そしてその時、タイミング悪く体の奥に出されていた日向のそれが存在を主張するかのように尻の穴から垂れ流れ、下着にじわりとはりついた。  「か、帰る...っ、!!」  状況に堪えられない、と穂波は息を荒くし、乱暴に手を振り払うと鞄を手にするのも忘れ、そのまま走って部屋を出ていった。  後ろで何度も自分を呼び止める声が聞こえた。こんな逃げ方、先程の質問を肯定しているも同然のことだった。  それでも穂波は動きを止めることなく、結局後ろを振り返らずに松高の家を後にした。

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