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第41話

 無表情の日向。足を掴まれ引きずられるようにしてベランダまで連れられる。そして外に出された瞬間、ヒヤリ、とした冷たい空気が体を包み込んだ。  投げつけられる衣服。大きな音を立ててしまるベランダの扉。  両手は未だ後ろ手に縛られたままだったが、穿こうと思えばズボンは穿けそうだった。しかし、四肢は動かず投げ出されたままピクリとも動かなかった。  何を考えるでもなく、ただただ見上げて空を見続ける。雨は止み、薄暗い曇天がひろがる。コンクリートの床は冷たく、容赦なく穂波の体温を奪っていった。  少し顔を横に向ければ、一軒家の屋根や木々の天辺が視界に入る。  日向の部屋はマンションの最上階の1つ下だった。高い高い位置。それは飛び降りてしまえば命の保証はできないであろうほど...  「 ほーなみ 」  その時だった。いつの間にか開けられたベランダの扉。ひょっこりと現れた二葉は穂波の体の上に跨ってきた。  「見つかっちゃったねぇ。しかも気狂いなんて呼ばれて...でも大丈夫だよ?僕の穂波への愛は変わらないから。これからはずっと一緒。」  近づく二葉の顔。鼻と鼻が触れ合い、二葉の吐息が唇にあたる。そして二葉の瞳に映るのは、自身の姿。 二葉の瞳を通して自身と見つめ合う。  「日向さんと穂波の仲も離せたし...残るは、今日穂波と一緒にいたあの男だけ」  『こいつのせいだ。全部全部全部』  瞳の中からこちらを見て、そう囁くその姿は徐々に顔を歪ませてきた。その声は二葉には聞こえていないらしく、穂波の脳内にばかり届いているようだった。  「日向さんは寝室に閉じこもってるよ。さぁ、一緒にここから出よう」  『日向も戻って来ない。手遅れだ。もう...どうにもならない』  「ほら、これで自由になれたでしょ?」  両手を縛っていた紐は外される。その間も二葉の瞳の中の自身は囁き続け、そしてある言葉を最後に、穂波は突然二葉を突き飛ばし、その上に馬乗りになった。  漸く自由になったその手は二葉の首へと迷うことなく伸ばされる。  「...ッ!!あ゛っ...が、ぅ...ッ、」  握り潰すほどに強い力を手に込める。頭に残るのは最後に囁かれたあの言葉。  『 殺してしまえ 』  やけに自分の声にしては低い声が脳内に響いていた。

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