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第15話

 「...っ、はぁ」  まぶしい朝日が顔を明るく照らす。珍しく自然と目が覚めたが見ていた夢の内容に思わずため息が出てしまう。  ― 欲求不満なのだろうか  さすがに夢精はしなかったものの、春臣のそこは僅かに反応し固くなりつつあった。昔の出来事は掠れ忘れてさえいたにもかかわらず夢の内容は酷く鮮明で“リアル”であった。  「あ、起きてたんだ。朝ごはんできたけど...」  コンコンとノックされた後に中に入ってきた千晶は既に起きていた春臣の姿に僅かに驚きつつもそれだけ言いすぐに部屋を出ていった。その姿は夢の中とは違い、20歳を超えた大人の姿をしていた。  今では春臣に対してケンカ腰になることも絡んでくることもなくなっていた。といっても邪険に扱ってきては嫌そうに睨んではくるが。  ― そういえばあの日からだったか、千晶がこうなったのは。  それは車内で千晶を懲らしめた次の日。その日から千晶はまるで別人のように大人しくなった。  春臣に対して媚びるようになったわけではないが、言いつけはすべて守るようになった。今では京太が忙しい時には千晶が家事をこなしていた。...――― 無表情でまるで召使のように。  そんな千晶だが京太には普通に接していた。春臣には必要な時以外は話しかけてこないし、笑いかけてもこないが京太には一般的な“父親”と話すような“息子”という顔を見せていた。  部屋を出て居間に入れば香ばしい焼けた匂いがひろがった。食卓テーブルの上には食事が2人分対行線上におかれていた。それはいつもの配置。食事はともにするが話は一切せず、目も合わせない。春臣自身、それに対して一切不満はなかった。  席についていた千晶は既に手を付けており、半分ほど減っていた。  大きな瞳に小さく高い鼻。夢の中のころと比べて大分大人びた顔になったがそれでもどこかまだ幼さが残っていた。特に周囲を取り巻く儚さは中学の頃から変わっていない。  身長は越されなかったが、あれから随分と背も伸びた。平均身長くらいはあるのではなかろうか。  「ジロジロみられるとご飯食べづらいんだけど」  「...ん、あぁ悪い」  そうして会話は終わる。春臣の視線に千晶は嫌そうに眉間に皴を寄せる。それがおかしくて見つけ続ければ、どんどんと眉間の皴は深まる。  よっぽど不快なのか、しまいには朝食もそこそこに千晶は席を立ってしまった。そうすることでなんだか空間が広くなったように感じる。  ―ピンポー...ン、  そんな時だった。部屋のチャイムが鳴らされたのは。  それは春臣にとって面白くもない、不快な出来事を知らせるものだった。  千晶も来訪者をわかっており、インターフォンを確かめるのもそこそこに玄関の扉を開けに行った。それからすぐ、居間に戻ってくる足音は2人分あった。  「おはよう、春臣君」  「...はぁ」  思わず出てしまうため息。目の前に立つのは、背の高い春臣よりもさらに背の高い、眉目秀麗な青年、誠太であった。  切れ長の二重の瞳に、筋の通った高い鼻、シャープな輪郭。薄い唇の口角は上がり笑みをつくる。  次に眉間に皴を寄せるのは春臣の番であった。

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