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第29話
「なんでお前がここにいるんだ」
「なんでって、父さんからこの部屋のカードキー貸してもらったから。春臣に演技指導してもらう約束したって言ったら喜んで貸してくれたよ」
そう言い、目の前でヒラヒラとカードキーを見せつける千晶は口角を上げるが目は笑っていなかった。
映画撮影の1日目が終了し、ホテルでディナーを済ませた春臣だが、部屋に戻ればそこには千晶がいた。
たしかに、生活習慣がだらしない春臣を京太はいつも心配していた。その為、京太は長期ロケの時には何かあったら部屋に入れるようにと部屋のカードキーを春臣が持っているのとは別に一枚持つようにしていた。
-ここにきて、改めて京太の千晶への甘さを垣間見ることになるとは思いもしなかったな。
まさか自分の部屋のカードキーを千晶に渡されるとは。
「まさか撮影期間中、頻繁に来るつもりじゃないよな」
「そのまさかさ。献身的に演技指導してよ、春臣」
「何が演技指導だ、嫌味も程々にしろよ」
「え...今の、嫌味に聞こえたの?どうして、ねぇ、どうして?---春臣の演技は嘘くさいから?」
「...っ、」
千晶の絡みついてくるような言動一つ一つに反応していてはキリがない、そう思いながらも無視できない自分がそこにはいた。
苛立ちを隠せない春臣はベッドに腰掛けるとガシガシと乱暴に頭を掻いた。
「お前いい加減に...」
「怒ったって無駄だよ、弱み握られてるのは春臣の方なんだから。ほら...観てよ、これいい画だと思わない?」
「...なっ!」
ふいに目の前に曝け出されるのは先日の誠太と自身の痴態。スマホの中で嗚咽しながら性器をしゃぶらされる自身がアップに映されている。そして、動画の中で映像は春臣の顔から萎えた性器へと変わる。
「笑っちゃうよね。可哀想なくらいに萎えて縮こまってる...だからさ、今日は逆にこっちを大きくしたのを見せてよ」
「こっちをって...」
「自慰したことあるよね」
冗談言うな、喉まで出かかったその言葉は千晶の暗い瞳に止められる。
「ほら、今回もちゃんと撮ってあげるから...撮影されるの大好き、でしょ」
ポン、と録画が始まる音がした。
向けられるカメラ。
どこにも逃げ場などなかった。
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