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第50話

 ー まるで彼女面だな。  ソファに座りテレビを観ていれば寄り添うようにして千晶も隣に座る。  春臣からキスするようになってからというもの、開き直った千晶はまるで恋人同士のようにべったりとくっついてくるようになった。もちろん、それは京太がいない時に限るが。  あの無愛想な男がこんな風に甘えてくるなんて誰が想像しただろうか。    「春臣の手はきれいだな」  千晶は春臣の左手を自分の方に引き寄せ、まるで宝物でも触るかのように大切そうに撫でてはまじまじと見つめる。  毒を吐くことも大分減った。あの仏頂面が、今では自然と微笑みさえする。  「俺の手、そんなに好き?」  「うん...」  甘くどい雰囲気。愛しいものを見る目つき。朗らかな笑み。優しい口調。  ー あぁ、辟易する。  どろり、と春臣の瞳が濁る。    ー こいつ、こんなに馬鹿だったっけ。こんなに騙されやすいやつだったけ。それとも...それに気が付かない振りをするほど俺のことが好き?  「好きだよ、千晶」    俺を脅した千晶が。俺を貶める千晶が。俺を辱める千晶が。そんな千晶が憎い。  俺から主役の座を奪って、京太の愛情も奪って、そのくせこんな風に俺にべったりで、甘えて、俺の存在全てがまるで宝物みたいに目を輝かせて見つめて、至極幸せそうな顔をして...馬鹿じゃないの、俺はそんなきれいな人間じゃないし、お前のことも利用するだけしたら捨てるつもりだし...  ー なんで、騙されてるって気が付かないかな。  何故だかそんな千晶を見ていると胸がツキツキと痛んだ。  今まで多くの人間を騙して転がして捨ててきた。今回だってそのうちの一つだ。利用するために恋人ごっこを始めただけ。  けれど、こんな風に愛されたことがないから戸惑ってしまう。こんなの知らない。どうして騙してる方の俺が胸を痛めなければいけないんだ。  日に日に増していく愛情が鬱陶しい、心地いい、気持ち悪い、温かい。ぐるぐると春臣の中でたくさんの感情が溢れ出てくる。  さっさと終わりにしてしまおう。ここまでくれば、あとは春臣の言葉一つで誠太の説得も証拠隠滅も思うままやってくれるはずだ。  「なぁ、千晶...」  名前を呼べば嬉しそうな猫目がこちらを上目遣いで見てくる。  ー さぁ、短い期間ではあったけど、もう恋人ごっこも終わりだ。  「...今日の晩ご飯は何作ってくれるの?」  「今日?今日は昨日春臣が言ってた...———」  千晶の言葉を聞きながら春臣は笑う。  それは意思と言動が矛盾している、そんな自分に向けた嘲笑であった。  

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