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代償の痛み 10
肉ばかりの偏った食卓は、どれも素晴らしい味付けで焼き具合だった。
悔しいくらい美味しいが、さすがに野菜もとりたくなる。
付け合わせ程度の葉物野菜をもしゃもしゃ咀嚼しながら、皿に積み重ねられる骨に、ニールは苦笑をにじませた。
「なあ、少しは野菜を食べろよ」
食卓にならんで気づいたが、エフレムは野菜の類が苦手らしい。口直しに果物をかじるくらいで、肉と肉とパンと肉といった見事なまでの偏食ぶりだった。
「健康を気にする年でもってねぇしな。好きなもん食って死ねりゃあ、本望だ」
大げさな。ニールは水と一緒に用意された、果物を絞ったジュースにてをのばす。
甘酸っぱく、しぼりたての瑞々しい香りがしている。
貴重な氷を浮かべているので、ひんやりとしてとてもおいしい。
おいしいのだが、すこしばかり気に入らない。
(餓鬼扱いしやがって)
順調に赤ワインをあけていくエフレムは、相当酒に耐性があるのか、表情は少しも変わらない。
「なあ、オレも」
ジュースを飲み干して、視線で促す。決して、のめないわけではないのだ。
「うちに、ビールはないぞ」
「うるせぇな、あんたと同じものでかまわねぇよ」
軍人にとって、ビールは飲料水と同じ扱いだ。さらに馬鹿にされたような気分になって、ニールはテーブルのうえに肘をついた。
「ワインでいい、飲む」
「別に、無理しなくたっていいんだぞ。酔ったお前を介抱するなんて面倒はごめんだからな」
どうやら、からかっているわけではなさそうだ。
とはいえ、心配のたぐいとはまた違う。
「飲むったら、飲む」
酔ってへまをするんだろ? みすかしているぞ、といったエフレムの態度がひどくしゃくに障る。
イライラと空のグラスを叩けば、「仕方ねぇ」とこれ見よがし肩をすくめてみせたエフレムが、片手にワインボトルを持って立ち上がった。
ぐるっと机を回って、ニールの隣に立つ。
「あんまり、調子にのるなよ?」
グラスを掬うように取り上げ、エフレムは先ほどまで飲んでいたジュースをグラスに注いだ。
「おいっ!」
馬鹿にするなと腰を浮かしたニールだが、待てと視線で止められる。
次にエフレムは水を足し、赤ワインを注ぐ。
ふわっと漂う匂いに、視界が一瞬眩んだ。香りだけで酔いそうだ。
「これで、我慢しておけ」
最後に口直しの果物をグラスに沈め、エフレムはもとの席ではなく、手近にあった椅子をひいて座った。
「ジュースじゃないか」しぶしぶながら、受け取った。
口を近づければ、女が喜びそうな甘い匂いがした。
「飲み口が良いからって、油断するなよ?」
くぎを差すエフレムを無視して、ニールはグラスをあおった。
◇◆◇◆
妙な体の軽さを感じていた。
ふわふわと、暖かい湯船に漂っているような心地よさだ。
くすぐったい気もする。撫でられているような安堵感を覚えて、ニールは息をゆっくりとほどいた。
「……目が、覚めたのか?」
「んぅ?」
しゅるっ、と衣擦れの音。身じろげば、素肌を優しい生地がつつんだ。
ちゅく……
水音に、ニールはぼビクッと体をふるわせた。
酒とはちがう、媚薬のような香りを間近に感じて、ニールは瞼を震わせた。
ちゅく……ちゅく……
「……んぅ? ふっ、あ、あぁっ!」
明確な、痺れるような快感を下肢に覚え、ニールは目を見開いた。
ベッドの上、仰向けに寝かされている。
「なっ……なんれ?」
力の抜けた舌足らずの声を笑うよう、水音がちゅく、と返ってきた。
大きく割開かれた下肢の間、当然とばかりに居座るエフレムが、にやりと笑っていた。
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