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男の名残 13
ゆったりとした大きめのソファだが、男が二人で寝転ぶには少しばかり窮屈だった。
しかも、ニールは筋肉の付いた現役の戦士とあって、ソファに体が収まりきらず、片足が床に落ちている。ふかふかとした座面出なければ、体ごとずり落ちていたかもしれない。
「や、やめろっ……殴るぞっ」
逃げようともがくが、ブーツのヒールが床を滑るばかりで、官能の熱に絆された体は上手く力が入らない。
かつかつと、部屋に響く神経質な音ですら官能的に濡れている気がするのは、甘く温かい部屋のせいだろうか。
「すっかり、脅えちまって。あんまり、誘うといけない気分になってくるだろう?」
ふざけるな、そう叫んで本気で殴ってやりたいが、ニールは漏れそうになる嬌声を押さえるだけで精一杯だった。
急所をねっとりと手で愛撫されていては、動きたくとも動けない。
意を決して反抗しても、硬くなった先端を親指で擦られるとこみ上げてくる射精感になにも考えられなくなる。
「や、やだって、も、やめろ……こんな、とこで……んっ」
「ほら、腰をあげろ。服を汚したくないだろう?」
軍服のジャケットは押し倒される間に引き抜かれ、黒いシャツは喉元までずり上げられている。思うがままに吸われた乳首は硬く痼り、唾液で濡れたせいか少しばかりひんやりとしている。
体を覆っているものは、腰までずり下げられた下着とズボンとブーツ。そして、黒い眼帯のみだ。
半裸と言うには、あまりにも無防備過ぎるかっこうにされてはいても、明るい部屋の中、体を重ねるために自分から全裸になるなんて恥ずかしいにも程がある。
「ほら、また垂れてきた。染みになるぞ」
「……っ、くそ」
追い詰めるよう弱い先端ばかりを扱かれ、とろりとした先走りがあふれ出してくる。
ぐちゅぐちゅと増してゆく水音と、肌を垂れる精にぶるぶると震えながら、ニールはぎゅっと目を閉じた。僅かばかりの抵抗を残しつつ、腰を持ち上げた。
「よしよし、良い子だ」
「はっ……くそっ、こんな」
悔しさと羞恥に視界を濡らすニールは、ブーツを脱がしているエフレムを呆然と見つめるしかなかった。
嫌と首を振りながらも、着々と進んでゆく準備は儀式めいていた。
床にニーハイブーツが置かれ、ズボンが抜き去られ、剥きだしになった素肌を絹の手袋がするりと撫でてゆく。
「……っ、ふ」
びくんと足を強ばらせば、エフレムはにやっと笑って片足をソファの背に引っかけた。
「ちょ、お前っ」
両足を大きく開く格好になって、さすがにニールは慌てて起き上がろうとするが、一歩遅かった。
勃起した先端を舌で先走りごと舐め取られ、あまりの快感に悲鳴を上げ、ソファに沈み込んだ。
「あっ、え、えふ……れむ、だめ、きたなひ、から」
初めて受け入れた夜でもそうだったように、貴族らしく、整った顔が平然と男根をしゃぶる姿は、どうしようもない背徳感を煽られる。
あの夜は、酷く酔っていて朦朧としている状態でも、腰が立たなくなるほどの快感を与えられていた。
「……っ、んむっ……っふ」
じゅるじゅると、先走りと唾液をつかって男根を口腔で愛撫するエフレムは、脅え竦むニールを上目づかいにみやる。
感じている姿を、じっと見られている。
意地の悪いエフレムの視線を感じていても、快感をやり過ごそうとソファを両手で掴んでいるので、隠せるものは何一つなかった。
ぎゅっと瞼を閉じていても、視線を感じる。
目を開ければエフレムの痴態、見ていられなくて目を閉じれば、より一層、快感が深くなる。
どうすれば良いのか、増すばかりの熱に曝され思考力の落ちた頭は、ニールの意思に反して与えられる快楽を貪ろうと動き出していた。
「あっ、んあっ!」
びくん、と背中が反る。
射精こそしていないものの、絶頂に似た感覚に視界が白んだ。
閉じることを忘れた口の端からは、とろりと濃くなった唾液が零れる。
「俺の他に男をしらないなんて、本当に本当か?」
苦笑を零す、エフレムの吐息が熱い。
「……ぁ、やだ」
うっすらと瞼を持ち上げ、ニールはぼんやりとエフレムをみやる。
「と、取って」
「ん? ……あぁ、手袋か」
精子を溜めて膨らんだ玉を唇で愛撫しながら、エフレムは掴んでいた腰を離した。ニールが放った先走りを吸い込んで湿った手袋を脱ぎ、床に放り投げた。
「気持ち悪かったか? すまないな」
素手になった両手は枷を解かれた獣のように、ほんのりと赤くなった素肌を蹂躙した。
「あっ、ふ……もっ」
はっきりと形を成してゆく快楽に押し流され、ニールは僅かに腰を持ち上げた。
ふくれあがる射精感を、止められない。まったく、制御できなかった。
絶頂へと差し向けられているのも忘れ、ニールはエフレムの舌に勃起したものを擦りつけていた。
恥も外聞もない。
快楽の虜となって、解放の時をひたすらに求めた。
――が。
「ふ、あっ?」
ずるっと引き抜かれた口に、疑問の声があがる。
いつもなら、追い上げられるまま精を吐き出していた。攻めることはあっても、緩みはしないのがエフレムの愛撫だった。
ニールは両足を大きく広げたまま、見下ろしてくるエフレムを見返した。
どうして? と、眉根をひそめて勃起した乳首を見せつけるよう大きく呼吸をすれば、ぎしっ、とソファが悲鳴を上げた。
「する、つもりはなかったからな。もっと、慣らしておかなきゃならない」
じっと、愛撫の手を待つニールを笑い、エフレムは零した先走りでしっとりと濡れた後孔を指先でなぞり上げた。
「あっ、ああっ!」
びくん、びくんと体が大きく跳ねる。
「あ、や、やらぁ……いれないで」
懇願しながらも、曝された後孔は男を待ち構えるよう淫らに収縮する。ニールは体を穿たれる痛みと恐怖、行きすぎた快楽を思い出し涙をこぼした。
もう一回なんて、耐えられる気がしない。
精一杯の懇願は、しかし。エフレムの官能に火をつけただけだった。
青灰色の目にあった理性の光が薄らいだのを見ていたら、ニールは何をしてでも逃げていただろう。
油断させたのは、終始浮かない顔を見せていたからだろう。
「……せめて、優しくする」
悪いな。
そう、耳元で囁いたエフレムは、あやすようニールの髪を撫で梳きながら、二つにまとめた指を熱く熟れた孔に潜り込ませた。
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