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もう何本入っているのか分からない。
一本なのか二本なのか、なんなのか。
永遠に続く責め苦のような時を過ごしながら、俺は力なく呻 くことしかできなかった。
理衛の大きくて固い手が腹を撫でたり、肌を滑っていくのは心地よかった。だがそういう用途に使われるための器官でないところに捩 じ込むのは――。
「ぁ、いっ」
痛い。穴の縁は引き攣 れそうなほど広げられ、そこに理衛の指が幾度となく出入りしている。中を探る指も内壁を押しやり引っ掻いてはぐにぐにと蠢 いている。
こんなこと無理だ。……少なくとも俺には無理だ。
ぐちゃぐちゃと尻から音がするのも嫌だ。吐息が弾むのも嫌だ。理衛の視線が刺さるようで嫌だ。声が我慢できないのも嫌だ。女にさせられるのが嫌だ。
弟とこんなことをする兄である自分が、みっともなくて嫌だ。
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「ひぃっ…!?」
突如上がった兄者の今までとは違う声色に、俺はようやくかと内心で快哉 を叫ぶ。
一時間以上をかけて、ようやく目標の本数を入れることに成功したが、兄者の良いところを探すのにこんなに苦労するとは。前立腺の場所は分かっているはずだったが、そこに触れてもなかなか兄は快楽を拾えなかった。
――好機。この機を逃さず、俺は兄が嬌声 をあげた箇所をゆっくりとなぞる。ゾワゾワゾワと粟立 つ肌に、戦慄 く肢体に、ここがそうなのだと教えてやる。
「はっ、はっ、はっ…!」
驚きに息を荒げ、丸く目を瞠 る兄にくすりと笑って俺は布団を剥ぎ取った。いい加減暑い。
温かい隠れ蓑 を剥がされ、外気に晒 された兄の肢体は薄暗い部屋の中でもほんのりと紅梅色に染まっているのが分かる。
己の指を咥 え込んだ穴をよく見ようと俺は股座 へと近づき、横たわる兄の体を仰向けに転がし、丸め込んで尻を突き出させる。羞恥を煽 る体勢に兄が非難を囀 るが、指を深く食わせるとそれは引っ込んだ。
ずっぷりと咥え込んだその卑猥。
尻まで刺した墨が色鮮やかにこちらを見ている。
ゴクリと唾を飲んで、おもむろにゆっくりと、三つの指を束ねたものを抜き差しする。擬似的な男根だった。それが今、あの兄の尻に……?
それはもう目眩 がする程、背徳的でどうしようもなく情欲を沸き立たせた。
自分の息遣いがうるさい。耳に血潮 が逆巻く音がする。視界が狭まる。
無意識に掴んだローションをそのまま温めもせず尻の割れ目に垂らしきり、空になったボトルをどこかへと放る。空いた急 く手で今度は前を寛 げると、怒張した己を強引に取り出す。差し込んだ指をひと息に抜き、押し除けるようにそこへ己を宛てがう。
フーフーと獣のような息が漏れる。固く絞られた菊門に暴力的なものがぶつけられる。入りたいと獣が暴れている。
ひっと漏れた悲鳴は眼前の獲物の喉からか。怯える目がこちらを見ている。仕方がない、食われる者の宿命なのだ。兄は、二分するのであれば、食われる方の人間だった。そして、俺は食う側の人間だった。
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獣かなにかが鳴いていた。と思った。
犬が飼い主に哀願する服従の声のようでもあり、盛った猫の出す赤子のような声だなとも思った。
口の中が乾く。その声が出ているのは震える自分の喉からだった。身体が軋み裂かれる痛みに吠える。
そうか。
獣は俺だった。
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啜 り泣くような息遣いの中、堪 えきれない弾む悲鳴が蠢 く影に輪郭を与えた。暑く薄暗い夜を一枚、一枚、深く黒く塗り替えていく兄の悲鳴。めりこませた根が、音を立てずに少しずつその体を貫いていく。
普段泣くことのない兄は、やはりこの時も泣いてはいなかった。涙は子どもの頃に枯らしておいたのだと話していた兄。
泣かぬ代わりに目を見開き、深く刻まれた眉間の皺 と血走った目が痛々しい。それと同時に赤らんだ目尻がぬらりと光っていやらしい。
上から押さえ込まれ、逃げる場のない兄者はされるがままに俺の昂 りに貫かれている。まだ入りきれていない。半分もない。それでも今、俺のものを兄者が受け入れている。きつく絞られた兄の中は溶けるように熱い。額に浮く汗が顎まで伝う。
言葉を発する余裕がない。兄の身体を気遣う余裕がない。兄の身体を味わう余裕もない。埋めることしかできない。
ずず、と腰を押し込めばそれを押し返すように中から強い抵抗がある。それを自分の体重で御 しながら奥へと進んでいく。最奥まで行けば救いがあるかのように、ただ愚直に腰を落としていく。不意に中の抵抗が弱まりずるりと身体が沈んだ。兄の背が弓形 に反って悲鳴が響いたが、俺は構わず埋めた。行けるところまで、どこまでも深く落ちて行きたかった。
はくはくと口を動かし、痙攣 するように震える兄の腹に手をつき、自分の男根の先端にぶつかる肉の感覚を確かめると俺は息を吐いた。呼吸を止めていたことにようやく気付いたからだ。
「…兄者」
大丈夫ですか、の意味をこめて名を呼ぶ。可哀想に。意図したものではない震えに体を強張らせながら、兄は視線を真っ直ぐ天井へと向けたまま荒い息を繰り返していた。まるで縫い止められた標本のよう。
「無理をさせました、すみません兄者」
言って、己の言葉に震えた。俺の無体 を受けつつも飲み込んでくれた兄者の姿が胸を打つ。この兄のことがたまらなく愛おしかった。
「兄者ァ……」
好き、好きです。好きです兄者。
こんなにも優しい兄者。愚弟と、元妻に裏切られた可哀想な兄者。傷付いて抱いていいなんて言い出す愚かな兄者。可愛い。可哀想で愚かで、なんて可愛らしい……。
ぐっと質量が増すのが自分でも分かる。血が集まる気配に角度が増す。その変化に敏感だったのはそれを咥え込んだ兄者だった。
「ひっ、りえ…」
漏れた怯えが喉をつく。
「好きです、兄者。愛しています……」
兄の首筋に顔を埋めようと身を屈めれば、勿論接合は深くなる。
「が、ぁッ! りぇ…!ぁ、あーー」
濁った音が押しつぶされた体から聞こえる。接合部からぬぷっと鳴った水音が卑猥で興奮する。首筋を舐め、そのまま耳を丁寧にしゃぶりながら深くなった腰をゆるく揺すって動かす。緩やかな快感が繋がった先からじわりじわりと染み出してくる。
「ひぅ、…ッ、っ…!ふ……」
我慢することが得意な兄は、口を押さえて込みあげるものを留めようと必死で、こんなもの我慢せずとも良いものだと教えてやりたくなる。
揺らすだけでなく、抜き差しに近い――それでもすべて抜きはせずに僅 かに動く程度の上下運動を挟めば、痛みがあるのだろう、辛そうな声色が更に悲痛なものに変わった。
痛めつけたいわけではない。出来る限り苦痛は取り除きたい。そう思っているのは事実だが、これ以上は労わりようがない。申し訳程度に萎 びた兄のものを摩 ってやるが、萎えたままビクビクと震えているだけだった。
その癖、中は凄まじくキツく締まり、処女の膣よりずっと狭かった。このままでは勃ち往生――なんて。馬鹿らしいことを考えて俺は兄者の頬を軽く叩いてこちらへと意識を向けさせる。
「兄者、我慢は得意ですね?」
兄者の目が悲しみに大きく開かれる。瞳に落胆と絶望が見える。
我ながらひどいことを言ったと思う。しかしこのまま徒 らに止まっている訳にもいかない。
「もう少し辛抱を」
「あっ、いや……りえい、待ってくれ」
縋 り付く兄の姿を目に映すと、一瞬躊躇 いが生まれる。だから見ない。
「俺はもう待ちました。兄者が体を開いてくれるまで、俺からは触れず、一年以上も。これ以上は待てません」
そして俺は腰を引き抜き、打ち付けた。
ここからは俺のなすがまま、兄者は体を貪られ続けた。獣に食い荒らされる被捕食者のように。
「ぁッ、ン、…っ!はっ、あ…!」
舌の回らない状態で突かれる度に短い言葉を喘ぐ兄の姿は猛烈に劣情を誘った。
狭くて熱い兄者の肉を穿 ち拡 げて蹂躙 する。すぐに力を込めてしまう兄を諫 める為に何度か尻を打った。打たれる度にビクリと身体を揺らし、力を抜こうと悶 えるが結局は無駄な足掻きにしかならなかった。
「ひっ、ンッ!…ぐ、っぁ!…あ!ア、はッ……」
高く上げられた腰を掴まれ、投げ出した脚は肩に回され、あられもない格好のまま、弟にしたたかに腰を打ち付けられ喘ぎ続ける俺の兄者。
夢にまで見た光景とその感触。俺はもう無我夢中だった。
早く達して兄を解放してやりたい気持ちと、いつまでも嬲 っていたい気持ちに挟まれる苦悶。しかしそれがまた快感であった。
じわじわと広がっていた結合部の快感は今や男根から広がって全身を蝕 む。
脳髄まで快感でふやけているようだった。ただただ腰を振るだけの低俗な動物に成り下がりながら、兄の名を呼んだ。正確には兄者と。兄の名を呼ぶのは畏 れ多くて気が進まない。
最早うまく舌が回ってない状態で「あにじゃ、あにじゃ」と夢中で名を呼びながら、俺は打ち付ける勢いに任せて一際大きく穿 つと、兄者の中にどぷりと子種を放った。
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