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番外 一番に出来なくて

 私は生まれが貴族だから側室が何人いようと疑問も抱かず生きてきた。父上も母上のほかに側室がいたからだ。愛があればそれでいいのだと思って生きてきたが一般的には不倫などは問題になることを大人になってから知った。いや、魔族にはそんな決まりごとはないのだが人間はそうだと言うのを知ったのだ。人間社会を渡り歩いてきたセバスティアーノ、人間のイグナーツは「恋人は一人」と思うようで…。両者共に愛している私は時折問い詰められる。 「最近イグナーツとばっかり寝てない?俺のコト、嫌いになったのかナ?」 「そんなつもりはなかったのだが…」  すべてを平等にしたいと思うのは簡単だがそう上手くいかない。こうして嫉妬したどちらかに追いつめられることも少なからずある。今回はセバスティアーノがお怒りだ。イグナーツを優遇していたつもりは全くないが本人がそういうのだから慰めてやらないといけない。 「まぁ…分かってるつもりではあるよ。でもね…嫉妬くらいさせてよネ!」  人間は愛が深く嫉妬もしやすいと聞くがセバスティアーノが嫉妬深いのはたぶん性格のせいだろう。遊び惚けている彼が嫉妬なんてと笑う人もいるが、彼と出会って以降見知らぬ人と一夜を共にする回数は確実に減っている。この頃は私が誘いを断った日に見知った数人と共に居るくらいのもので自発的に他人と交わることはかなり少ない。 「君が本気で嫉妬して行動を起こすとろくなことが無いからやめてくれ」  嫉妬してくれるほど愛してくれているのだということを理解したうえで、申し訳ないが遠慮したい。前に数回嫉妬が原因で警備兵が総動員することがあったためである。 「愛に嫉妬はつきものなんだから仕方ないじゃないか」 「………にしても、だ」  ゆっくり追いつめられてベッドにぶつかった。逃げたいわけではないが彼を待たせてしまった後ろめたさがないわけではない。彼が忙しいからと遠慮してイグナーツを部屋に呼んだ件は本当に怒っているようだったし、今日は機嫌が悪いようだ。尻尾が彼の機嫌を表している。 「明日は公休日だからずっと俺と居てくれるよネ?」  否定することはしなかった。正直に言えば公休日とイグナーツが聞きつければ二人きりで過ごすなんてことは叶わない気がするのだが。 「あまりひどくしないならな」  仕方なくゆっくりベッドに横になると嬉しそうにセバスティアーノの尾が揺れた。ベッド横の棚からいつものオイルの瓶を取って私に覆いかぶさった。人間で言うなら私は30代、セバスティアーノは10代だ。何でもやってみたい歳なのだろうが私としては子供の様に見える部分も多いからかどこか罪悪感を覚えることもあるのだとこの前伝えたはずなのだが。 「ん~保証はできないかも♡」  満開の笑顔でそう返され、溜息をついた。しかしそれが彼のいいところでもある。 「仕方がないな」 「ねぇ、アーロ?」  息がかかる程セバスティアーノと距離が近い。 「なんだ?」 「…なんでもないよ、アーロ」  フフッと笑う彼の吐息がこそばゆくてつられて私も笑ってしまった。愛しい人に語り掛けるとき声色はいつもより優しい。 「バスティ?」  彼が私の手を取って手のひらにそっとキスをした。そのまま頬を撫でるように動かして愛おしそうに擦り寄ってくる。幸せな時間。甘え下手と甘え下手が互いにぎこちなく気持ちをぶつけあうひと時は他人には見せられないほど恥ずかしく、けれど幸せなかけがえのない時間。 「あ~ろっ!」 「なんだ?バスティ?」  意味もなく名前を呼んでは笑いあって、見つめ合う。時間がたっぷりあるときに情事の前に必ずやる二人にしか分からない前戯。互いに互いだけを考えるようにするための儀式みたいなものだ。 「ん~えっちしよ!」 「………可愛く言ってもな」  折角の雰囲気を踏みにじってセバスティアーノが私の服を脱がす。”椿”と書かれた丸い瓶からオイルを垂れ流して私に塗りたくる。それは多少のぬめりを伴うが非常に肌に馴染んで不快感を感じさせない。 「するためにここに居るんだからしないなんてことはないよネ」  事実ではある。私が一人で眠る際は地下室の自室で棺桶で眠るのだからこうしてベッドルームに居るというのは彼らの誘いを断る気がないということだからだ。この場合私がここに居る時点でイエスと伝えているようなものなので否定できない。まぁ最近はイグナーツかセバスティアーノが間違いなく私を誘いに来るのでしてもいい日は先に私がここに居ることにしているのだが。 「君の体液は眠くなるんだがなぁ…」  どうやら彼の催淫効果のある体液が私(というよりはヴァンパイア)に効果はほぼなく、眠くなるらしい。気持ちがいいことは認めるが。 「ねェ?今だけでもいいから俺が一番好きって言ってヨ?」  私は返答に困った。一番大切………ではある。ただ同じくらいイグナーツも好きだ。二人共大切な側室なのだから。 「あ~………無理かぁ…」 「いや、君が一番好きに決まっている。ただ…」  そう、分かっている。私には「一番」が二人いても違和感などないが彼らにとってそれは「一番」ではないということを。ヒエラルキーの頂点でありたいというのは当然かもしれない。唯一無二の肩書があるというのは素晴らしいことだというのは国王として私が一番よく知っている。好きの感情の先に独占したいと思うのは生き物の性だろう。それを叶えてやれないというのは私の弱さからか。 「…わかってるサ。君が俺をどれだけ好きなのか。ごめんネ、わがままで」  そんなことないと、言いたかった。けれど私が言えることではないと思い口を噤んだ。片方どちらかを選ぶことも、嘘をつくこともできない。 「バスティ………」 「あ~………そんな顔しないでよネ。悲しくなっちゃうだろ?」  不規則な動きでくねくねと尻尾が揺れている。犬や猫の類ではない為その動きが明確に何を表しているのかは分からないが彼が言うほど機嫌が悪いわけではないことを比喩している。機嫌が悪いと尻尾がぴんと伸びているからだ。 「だが…」 「深刻な顔してちゃえっちが台無しなんだよネ~。」 「あ……………」  ふと、思いついた。それは最善案では無いかもしれないが名案だ。いや迷案というべきか。 「なに?どうしたのサ?」 「いや、お前が1番だと思ってな」  嘘をつくのが滅法嫌いな私だが嘘をつかずに彼を1番にしてやれるかもしれない。 「ん〜いいけどイグナーツはどうするのサ。まさか嫌いになったの?」 「いいや、そうじゃない。私は君といる時が"1番リラックス出来る"と思っている。かけがえのない婿……だろう…?」  思いを打ち明けるとセバスティアーノは微笑んだ。 「へぇ〜俺の事お婿さんだと思ってくれてるんだネ?嫁に貰っていいのかい?」 「………………、世継ぎの問題が片付いたらな」  近い血統の親族がいない以上避けられない道なので結婚するにしてもしないにしても子孫だけは残さないといけない。 「まぁ嫁の立場はイグナーツに譲るとして、夫婦三人仲良くやってかないといけないねェ」  将来、寿命の短い人間である彼が居なくなったらセバスティアーノ以外見なくなる可能性も無いとは言い難いが只でさえ孤独が嫌いな私はその現実に目を向けたくはなかった。 「さ~て、子作りに励もうか♡」 「っあ!?な、何…」  既にオイルを塗り込まれた秘部は彼の指を拒むことが無かった。ぬるりと入り込む彼の指は少しばかり冷たいがそれも忘れてしまうほど巧みな指使いである。太さはそれほどないが華奢で長く、男性らしくしっかりした指。意識してしまえばかッと熱くなり、キュッと締め付けてしまう。  「ほらほら~昼は長いんだからさ」 「眠れなくなりそうだ………」  うすらと明るくなってきた早朝に昂った魔族が肌を重ねて、沈む。

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