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3.クリニック
車は、縦書きで'おおさきクリニック'と書かれた
看板のある駐車場に入って行った。
10台ほどの車がゆったり停めることができる
広々とした駐車場の奥には、洋館のような造りの
2階建ての建物が見える。
大きな自動ドアの入り口の上には
'おおさきクリニック 内科・バース科'と
書かれていた。
暗い駐車場には一人の男性が腕を組んで
フェンスに寄りかかるようにして立って待っていた。
柊生は車を停めると、着いたよと和真に告げて
さっさと車を降りると、助手席にまわって
戸惑っている和真の代わりにドアを開けてくれる。
和真はエスコートでもされてるようで
気恥ずかしさを感じた。
柊生は、駐車場で待っていた男性に笑顔で
悪い悪い、と言いながら片手を上げた。
「こんなことして、後でどうなっても
知らないよ!」
顔を合わせるなり、男性は声を荒げたが
柊生は怯む事もなく、まぁまぁ今度おごるからさ!
などと言って強引に友人の肩を組んでいる。
和真は何も言えず、ただ二人の後ろを
着いていくしかなかった。
3人が誰もいないクリニックに入っていくと
センサーでパっと電気が着いた。
30畳程はあろうか、ベージュやモスグリーンの
淡い色で統一された、綺麗な待合室だった。
「柊生君はここで待ってて」
そう言って男性は 和真だけにこっち、と言って
診察室1と書かれた部屋のドアをあけた。
和真がチラリと柊生の方を見ると、柊生は
安心させるように笑顔でうなずく。
「大丈夫、あいつ本当はめちゃくちゃ優しいから
心配しないで診てもらって」
和真は小さくうなずいて診察室に向かった。
ー 分かるよ優しいのは。
優しくなければこんな面倒な事
引き受けたりしない。
怒ってみえるのは親友を心配してるからだ
診察室に入ると、ここに座って、と小さな丸い
背もたれのない椅子を差し出される。
男性は目の前の椅子に座って、正面から和真を見た。
表情はまだ険しい。
「大崎 傑 です」
軽く会釈をされた。
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