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玄関で靴を履く柊生を 和真は後ろからじっと見つめていた。 カチッとしたスーツ姿になると別人のようだ。 ー ストイックな感じが逆にエロく見えるな… って俺は変態か 「じゃぁ、行ってくるよ」 準備のできた柊生がふりかえる。 「うん、行ってらっしゃい」 和真は片側の肩だけ壁にもたれたまま手を上げた。 「それだけ? おいで」 柊生が目を閉じて、両手を広げる。 和真は笑いながらその腕の中に滑り込む。 「帰る前に電話する」 「うん」 柊生の手が和真の首筋を捕まえて、唇を重ねる。 「ん~~!」 和真が苦しくなって、離れようと背を反らしても ガッチリと後頭部を捕まえて離さない。 そのまま逆に体を持ち上げられて、軽く足が 床から離れた。 「こら!」 「ゴメン、ゴメンだって軽いから」 和真を下ろして柊生が愉快そうに笑う。 「いや、いってらっしゃいのチューって こんなに熱烈にするもの?!」 和真は手の甲で口を拭いながら抗議した。 「まだいい匂いするなって思ってさ」 「え?」 「うん、だから いい子でお留守番してなさい」 そう言って和真の頭をポンポンと叩く。 和真は無言でうなずいた。 「じゃあね」 最後に頬へ軽くキスして、柊生は風のように 出ていった。 和真は閉まったドアをしばらく眺めて はっと何かを思い付いたように 速歩きでリビングからベランダへ出た。 手すりに手をかけて見下ろして見ると、通りには 面していない、住宅や低層のアパートの屋根ばかりが 見えた。 「…逆か」 呟いて振り返ると、ベランダが裏側のルーフ バルコニーへ続いている事に気づいて、そちらへ 行ってみる。 バーベキューぐらい余裕でできそうな、植栽のある ルーフバルコニーの端まで歩き、また下を 見下ろしてみる。 マンションの正面に面した道路が見えた。 ー こっちだ そう思った、ちょうどその時、柊生のMINIが 走って行くのが見えた。 「なんだ車か」 駅まで歩いて行くと、勝手に思いこんでいた。 ー ドラマのようにベランダから手をふって 見送ったら喜ぶだろうと思ったのに…。

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