51 / 234

「おかえり」 玄関の前で柊生がインターホンを鳴らすと 中からドアが開けられて、笑顔で迎えられる。 「ただいま」 柊生は 満足気な笑顔で返す。 鍵を持っているのだから自分で勝手に開けて 入ることは出来たのに…。 この、おかえり、が欲しかった。 「お疲れさま」 口の端をくいっと上げて和真が笑う。 柊生の好きな笑い方だ。 「いつもご飯が先?シャワーが先?」 話しながらリビングまで歩く ー 何だろうこの 新婚さんのような会話は 高揚感がとまらない。 「決まってないよ、カズがお腹空いてたら 先に食べようか?」 ー それで後でゆっくりシようか? 「じゃぁ 食べよう~! キミちゃんのハヤシめっちゃ旨そうで 食べたくて、食べたくてさ」 じゃぁ俺準備するから、と言って和真は いそいそ キッチンに入っていく。 じゃぁ着替えてくる、柊生はそう言い残して寝室に 向かった。 1人寝室に入ると、あーもぅ可愛いなぁ!と 一人言がもれてしまう。 一方で、冷静な自分が高いところから 何をそんなに浮かれてるんだ、と引いて見ていて 頬をパシッと軽く叩いてから部屋を出た。 手洗いを済ませてリビングに戻ると、和真が 鼻歌まじりに、ハヤシライスをあたためていた。 テーブルにはすでにサラダが皿に盛られ 置かれている。 「何か手伝う?」 「ん~あ、じゃぁそれチンして 後はやるからいいよ! 座ってて」 柊生は皿に盛られているチキンソテーを 言われるままレンジに入れた。 そして、テーブルには行かずに 和真を後ろからそっとハグした。 「おっとぉ?」 和真は一瞬驚きつつも、逃げるそぶりもなく そのまま抱かれている。 和真の肩越しに鍋のなかをのぞいて いい匂いだねと、つぶやくと、でしょ?と ちょっとだけ振り返る。 そのとき和真の頬の傷が目についた。 事故の時にできた、割りと大きな擦り傷と ハゲの乱暴によってできた傷が 唇の端に残っている。 きれいな肌、白い肌に痕が残らなきゃいいけど… そんな事を思いながら、耳の裏側の柔らかい首筋に 唇を押し付けた。

ともだちにシェアしよう!