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「そんなわけで、杏菜は俺の私生活に
興味はないし、カズのせいでどうにか
なるなんて事もないから心配しなくていいよ」
和真は黙って話を聞いていた。
両手で握るマグカップの中はもう空だ。
「お金持ちって大変だね」
「だろ?意外とめんどくさいのよ」
柊生は冗談を言うように笑った。
「でも、顔合わせの話を受け入れてるって事は
結婚することに決めたんだね?」
和真が、ずっとマグカップに落としていた視線を
柊生に向ける。
柊生は何も言葉が出て来なかった。
「どう思う?」
「俺は何も言える立場じゃないよ」
「そうじゃなくて…この結婚って端から見たら
どうなんだろうって」
和真は肘をついて顎をのせる。
う~んと少し考えてから
「柊生さんが納得できてればいいんじゃない?」
少し笑ってそう言った。
「恋愛で結婚してもダメなときはダメだしさ
恋愛感情の有る無しは問題じゃないと
思うんだよね。後から変わる事もあるかも
しれないし…」
「納得ね…」
「柊生さんが考えて決めた事なら
きっと大丈夫だよ」
そう言われて ますます分からなくなっていく。
好きじゃないなら結婚なんてするな!
と言ってくれたらどれだけ楽だっただろう。
「心配しなくても、別に邪魔したりしないから
これからも 電話とか気にしないで 出てよ」
「…邪魔…いいかも」
「?」
「そうだ!今度会うとき和真も一緒に来てさ
目の前でイチャイチャしてたら、うんざりして
結婚やめるって言うかも!
杏菜は絵に書いたようなαだから目の前で
そんなことされてプライドが傷つけられたら…」
「ちょっと!俺を巻き込むのやめてよ
嫌ならそんな子芝居しないでハッキリ
断ればいいでしょ」
和真にズバリ言われてぐうの音も出ない。
「っごめんなさい」
「謝らなくてもいいけどさ…」
和真は聞き取れない声で何かぶつぶつ言いながら
立ち上がり、マグカップをキッチンへ運ぶ。
柊生は はぁ~とため息をついて
テーブルに倒れこんだ。
和真が戻ってきて
「まだ飲むの?カップ片付けるよ!」
そう言って、柊生のカップに手をかける
柊生はそのまま近づいてきた和真の腰に
タックルした。
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