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ピロピロと遠くで携帯が鳴っている。 ー 出なきゃ そう思ってもなかなか体が動かない。 手を伸ばしてテーブルの上にあるはずの 携帯を探る。 「…はい」 相手も確認せず出た。 (ネギ?) 思っていなかった相手の声が聞こえてきて 体が跳ね起きた。 「政実?」 出かける準備、といっても着替えだけ済ませて 昨日柊生が話していた、アメリカのドラマを 見ながらソファーで寝てしまっていた。 (もー ネギ 連絡するって言って 全然連絡くれないじゃん!) 「ゴメン、ゴメン」 そうだった、忘れてた。 ー 忘れてた? 俺 政実の事忘れてた…。 (その後 大丈夫なの?) 「うんまぁ、いろいろ あり過ぎて… 話すと長くなりそうなんだよね」 その時玄関の方で物音が聞こえて 柊生がリビングに入ってきた。 和真は、口の動きだけで おかえり、と伝えて 電話中なのを謝ろうと、拝むようなポーズをした。 柊生は了解、と手を上げてリビングを出ていく 着替えに行ったのだろう。 (何なのそれ、ずっと気になっちゃってさぁ 明日暇?無職だから暇だよな!?奢るから 飲みに行こうよ) 「明日…」 明日なら さすがに大丈夫か 「わかった、奢りならいいよ」 (奢りに弱いな!) 「無職だからな、そのかわりちゃんとそっちの のろけ話も付き合ってやるよ」 着替えを済ませた柊生が、リビングに戻ってきたのが 見えて、電話を終わらせようとした。 「じゃぁ明日いつもの所な」 そう言うと、柊生がチラリとこちらを見て 近づいて来たかと思うと、後ろからギュッと 肩を抱きしめられた。 「…っ!?」 違う…抱き締めたんじゃない 柊生は携帯に耳を当てて 会話を聞こうとしていた。 和真の心臓が早くなる。 (明日7時半頃な!ちゃんと朝まで付き合えよ!) 「あ、さ…までは…ないだろ」 ドキドキで言葉がしどろもどろになってしまう。 (冗談だよっ バカ!俺は次の日も仕事だっつうの) 「そうだよな…ははは」 渇いた笑いしか出てこない。 ー 早くきりたい。。 (じゃあな!先についたら 先に飲んでて) 「りょーかい…」 電話が切れた。 ー 何?この状況 「柊生さ…?」 声がかすれてうまく声がでない。 「怖いよ、柊生さん」

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