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…
「…俺が変なのか」
ふたたび運転を始めた柊生がつぶやく。
「それか、あれじゃない?
ドラマとかで見る、運命の番とか!」
和真は、ショックをうけてる柊生を笑わせたくて
冗談で言ったのに、柊生は真顔で黙ったまま
運転に集中している。
和真は気まずくなって、冗談だよ と続けた。
「そんなの信じてなかったけど、あるのかも…」
「え、冗談だってば?」
日曜の朝、ハゲ親父にフェロモンを気づかれて
その日訪れた柊生を、全力で誘惑しているあたり…
抑制剤が効かないほど発情していたのは間違いない。
認める。
会ったときから「甘い匂いがする」と言っていたのも
柊生の勘違いでは なかったと言える。
でも昨日も今日も柊生は和真から 何かを
感じている。和真自身は、もう抑制剤を
飲まなくても平気なほどなのに。
結ばれる運命にあるαとΩは発情期ではなくとも
お互いのフェロモンに気づくという話しがある。
実際には会ったことも聞いたこともない
ただの思い込みか、都市伝説みたいなものだと
思っていたのに。
今 都市伝説が ココにいる。
和真はチラリと横目で柊生を見た。
「柊生さんあんまり深く考えない方がいいよ
匂いって、ただの俺の体臭かもよ?」
「いや、体臭がバニラみたいな香りって
少女マンガか!」
ー 俺バニラみたいな匂いなのか…
そう思ったら急に、何故か恥ずかしくなってくる。
「この車内もカズの匂いでいっぱいだよ
何か話してないとエロい妄想ばっかりしちゃう」
和真は黙ったまま窓を全開にした。
「こら、寒い」
すぐに柊生が運転席から窓を閉めた。
車は郊外から、いつの間にか、きらびやかなネオン
で輝く、夜の街の中にいた。
光の海を眺めながら和真が どこに行くの?と
訪ねる。
「コジャレた居酒屋?」
と、だけ柊生は言った。
連れて行かれたのは本当に
'コジャレた居酒屋' だった。
店は2階建てで1階はテーブル席と
カウンター席だけ。店の真ん中は広く吹き抜けに
なっていて。
2階は壁にそってぐるりと半個室が並んでいる。
創作和食の居酒屋なのに店員も客も半数以上は
外人でカオスだ。
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