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柊生が入り口の店員と何やら親しげに話すと
2階の角の個室に案内された。
「面白いお店だね」
席につくと、回りを見回しながら和真が言った。
「だよね、ちょっとうるさいんだけどね」
確かに店内のBGMも、客の声もちょっと大きめだ。
「良かった高級レストランとか連れてかれたら
どうしようかと思った」
「そう言うと思ったよ」
柊生は自分のチョイスが当たって嬉しそうだ。
「そういえば飲むの?車で来たのに」
「帰りは代行頼むよ。電車で出歩くのは
まだ…心配だったんだ…」
「そっか俺か…ありがとー」
柊生はメニューを見ながら笑って
イエイエと返した。
アラカルトで適当に興味の あるものや
柊生のおすすめの物を注文したけど
どれもハズレは無くて美味しかった。
「代行と言えばさ」
ほどよくアルコールがまわってきた頃
柊生が話し始めた。
「あの事故の日も代行頼もうか迷ったんだ」
「何で頼まなかったのよ?」
「あの日 偶然大学の友達とバッタリ会ったんだ
まさかそんなに話が盛り上がると思ってなくて
ホテルのバーでノンアルコールで繋いで
あと5分で帰ろう、あと10分で帰ろうって
思ってるうちに… まぁ 飲むタイミングを
逃したんだ」
「なるほどね~」
「あの時さっさと呑み始めて、代行頼んで
帰ってたら、カズと会うこともなかったかと
思うと、不思議だよな」
「まさに運命だね」
和真は口の端をクイっと上げて笑った。
「魔性の微笑みやめろ!」
「魔性とか言うのやめろ!」
二人で店内のうるささに釣られて大声で笑った。
「カズここ何かついてるよ」
ふいに柊生が、自分のあごを指して言う。
和真はドコ?と自分のあごを探った
「違う逆」
言われて 逆をお手拭きで拭う。
「取れた?」
「とれてない」
言いながら柊生がテーブルの向こうで
オイデ、オイデと手招きする。
言われるままテーブルに肘をついて顔を近づけると
柊生の手のひらが和真の後頭部をとらえて
唇が重なる。
和真は驚いて体を戻し 通路の方を見た。
半個室には なっているけどドアはなく、簾の
ような物で上から半分ほど目隠しされているだけの
空間だ。
誰かに見られてないか気にして、挙動不審な
動きをする和真を、柊生が面白そうにお腹を抱え
笑って見ている。
「バカ!」
和真は持っていたおしぼりを柊生に向かって
投げつけて、ジョッキに残っていたビールを
一気に流し込んだ。
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