80 / 234

21.One step

2人で一緒に家を出る。 柊生はいつものようにスーツ姿で、 和真はゆったりしたシルエットのパンツに これまた、ゆったりしたシャツを ちゃんと首もとまでボタンを閉めた格好で。 エレベーターに乗り込むと、柊生がすぐ下の階の ボタンを押した。 和真は不思議そうに柊生を見る。 下の階に着くと、降りてすぐの部屋の前で 柊生が、ここだよ、と言って鍵を開ける。 「入って」 驚きながらも、柊生に促されるまま中に入った。 2LDKの部屋だった。 柊生の住んでいる部屋よりも全体的に狭く 物置用の小部屋がない。 「ここも俺の部屋なんだ」 言いながら洋室のドアを開けて、明かりをつけた。 中には雑然と物が置かれている。 大小様々なサイズの段ボールや、ゴルフセット。 天井まである棚には雑誌やトロフィー、メダルなど あらゆる物が詰めこまれている。 洋室一部屋は荷物が溢れているが、そのほかの 部屋は空っぽだ。 「上の自分の家の物置きがいっぱいになって ちょうどこの部屋が、持ち主の転勤で空いたから 物置がわりに借りたんだ」 「へぇ…」 「…というか、このマンション建てたの俺なんだ」 「!? 何て…?」 「低層でセキュリティーや設備が整った マンションを探してたんだけど それなりに便もよくて、でも静かな場所が よくて…理想的なのが見つからなくてさ… この土地をうちの祖父が持ってて、じゃぁ 建てちゃえって」 次元の違う世界の話しに、和真は目眩がした。 「そんなわけで、カズの荷物はこっちに運び込めば いいから」 「え、この部屋を貸してくれるってこと?」 「言うと思ったけど、ここはあくまでも荷物置場! カズは俺の部屋に帰ってくること」 そう言いながらいくつか鍵を和真に渡す。 これが上の鍵、これがここの鍵、 これはエレベーターのセキュリティーカードと 説明しながら次々渡す。 「それから、自分の家に戻ったら 引っ越し業者呼んで、全部任せたら いくらになるか 見積りもらっておいで」

ともだちにシェアしよう!