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「業者に頼むほど荷物ないよ」 「それでも大物家電とか、どうする気?」 「政実の友達が軽トラ持ってるって言うから 借りるつもり」 「1人で荷物上げ下ろしできるの?」 「いや、さすがに無理だろうから、政実に 手伝ってもらうかな」 ー やっぱりね 「おまえさ、俺には頼れないけど、その友達は 平気で頼るんだ?」 「え、、」 和真が固まる。 「それは何でなの? 付き合いが浅いから?金がかかる事だから?」 「…どっちも…かな」 「そんな理由だったら、俺の方頼れよ」 和真が唇を触りながら、上目使いに柊生を チラチラ見つめてオドオドしている。 動揺した時や考えているときの和真の癖だ。 今はきっと、遠慮するのと ありがとうと受け入れるのは、どっちが正解か 考えてる。 柊生はそれを苛立った表情で見つめて 突然、壁に和真を追い詰めて唇を重ねた。 そのキスの激しさに、和真はそのまま犯される のでは、と恐怖を感じて勝手に体がこわばる。 「何で逃げんの」 苦笑いしながら低い声で柊生が言う。 「…ビックリして」 柊生は和真の顔を両手でガッチリ捉えたまま おでこをすり付けた。 「お願い…いうこと聞いて」 吐息まじりに言われると、和真はもう反抗する気が 失せてしまう。 「俺達の間には…まだそれしか無いんだから 金くらい使わせてよ」 「…それしか?」 和真がそう聞き返す前に、柊生が離れて 床に置かれていたビジネスバックを持って 振り返る。 「いい? 分かった?」 そう言われて、和真は動揺しながらも うなずいて答えた。 それを見て柊生がホッとしたように笑う。 「よし! じゃぁ 行くよ」 「…うん」 玄関のドアを開けると12月の冷たい空気が 吹き込んでくる。 上着を着てこなかった和真は少し肩をすくめた。 「夜寒くなりそうだからちゃんと 暖かくしてけよ」 柊生はエレベーターが来るまで和真を抱きかかえて 背中を擦り、暖める。 エレベーターが来ると和真だけを乗せてカードを かざすように促す。 何を思ったか和真はそれをしないで、1階の ボタンを押し、柊生の手を引っ張った。 「下まで送るよ」 和真の言葉に 柊生は嬉しそうに目じりを下げて笑った。

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